real feel

幸せの略奪者

カフェに入ると、一番奥のテーブル席でこちらに背を向けて座っている女性が見えた。
後ろ姿では誰なのか全く予想できない。
私が知っている人物なのかどうか、それすらも知らされずここまで来たけれど。

「麗花さん、まひろさんをお連れしましたよ」

え、れいかさんって……まさかあの"麗花"さんなの!?

女性がゆっくりと振り返って私の方を向いた。
あ……やっぱりそうだ。

「大門、麗花さん……」

私たち家族の幸せを奪った人だ。
麗花さんはちょっと目を伏せ、哀しげな笑みを見せた。

「お久し振り、まひろさん。もう10年も前に"大門"の姓ではなくなってるんだけど私。まあ、じきに"蘭"姓でもなくなるけどね」

この人は私たち家族から、父を奪ったのだ。

………ちょっと待って。
じきに"蘭"姓ではなくなる、ですって?

「とりあえず、座りましょうか」

本宮先生に勧められ、麗花さんの真向かいに腰掛けた。

まひろさん、今日はお仕事で邦都まで来られると聞いたので、突然こんな風に呼びつけてしまってごめんなさい。貴女に謝りたくて……」

「謝るって、何をですか?」

………今更、謝られても。

「10年前、貴女のお父さんと私は関係を持った。そのせいで貴女の両親は離婚。真行さんは私と再婚。私の幸せをやっと手に入れることができると思った。……だけど、そう上手くはいかなかったわ。因果応報ってことよね」

上手くいかなかったって?

どういうこと?

「ねえ、まひろさん。貴女のお父さんが私と再婚した決定的な理由…知ってるでしょ?」

いくらなんでも、それくらいは知ってる。

父や母から頑なに話を聞くことを拒否してきた、この私でもね。

「父と関係を持った貴女が、父の子供を妊娠したから…ですよね」

麗花さんがさっき見たのよりも更に哀しさを増した、自嘲的な薄笑いを浮かべた。

「可笑しいと思わなかった?」


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