【完】俺様彼氏は、甘く噛みつく。

俺様彼氏は、甘く噛みつく

大通りの雑踏は街灯が明るくて夜の色を感じさせない。


すれ違う人と肩をぶつけそうな人混みを駆くんはあたしの手を引き、縫うように歩いていく。



「あの……この前」


「ん?」


「この前、書店で買った雑誌に“要注意な男子の特徴”みたいな特集記事があったの」


「へえ」


「それもね、なんか駆くんによく似てて」


「お前、言うねえ?」


呆れかえる声はもう不機嫌でもなくて。ほっとして笑っちゃった。



「そんなのもあって自信なくしてたかも……」



「あのなぁ……そういう特集っていうのはそれっぽいことを並べて、それっぽいことをやけに説得力持たせて書いてんだよ。商売だろうが」


ぐいっと、腕を引かれた。

「今宵はこっち」って人の少ない道に押しやる優しい手。


そして駆くんはあたしに並んで言うの。


「それが万が一大衆に当てはまるもんだとしても、俺をあてはめんな。俺は俺だろ」




彼はいつもそうだ。

余裕綽々(しゃくしゃく)。自信満々。



「……っふ、あはは」


「なんで笑ってんの」


「駆くんらしいなぁって……」


「うざ」



でも本当にそのとおり。



駆くんは、何にも左右されない、駆くんなのに。



噂とか、人の言葉とか、そんなのに左右されて流されるあたし、もうやめないと。


あたしはもう、目に映る駆くんだけを信じる。


< 339 / 344 >

この作品をシェア

pagetop