COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―
その沈黙を破ったのは室長だった。
『中島さん、もうそうやっていつも浄心さんをからかって。
嫌われちゃいますよ』
いつもの物腰柔らかな声が隣から聞こえる。
エレベーターが1階に到着すると、皆気まずさを振り切るようにエレベーターの外に出た。
誰と言葉を交わすことなく出口から会社の外へ出ると、昭香さんに小突かれる。
『ゴメンっ!
ちょっとあいつ焦らせてやろうと思って…』
そう私だけに聞こえる声で言う。
こういうところ、憎めないなぁとふっと笑みがこぼれる。
頭ではわかっている。
昭香さんの言動に悪気があったことなんて一度もないのだ。
「いいえ、本当に行こうかなと思ってます」
『ほんとにぃ?…でも花緒…』
昭香さんが言いかけると、隣にいた優香ちゃんが口を開いた。
『昭香先輩、このお店知ってます?』
スマホを昭香さんの前に差し出す。
その隙に歩を緩めて昭香さんと離れた。
今は少しだけ昭香さんと離れて歩きたい。
昭香さんのせいじゃない。
心に余裕のない私のために。
優香ちゃんってこういうところあるのよね。
その背中を見つめながら、心の中でお礼を言った。