彼はネガティブ妄想チェリーボーイ
1週間ぶりの食卓
19時に店に行くと、珍しく既に沙和がいた。

避けられてた期間がやっと終わった、のか?

すごく安堵する気持ちと、どうやって話せばいいのか戸惑う気持ちとがごちゃ混ぜになる。

おばさんも厨房から、沙和がいることを視線で俺に伝えてきた。

「おう。今朝はありがと。」

俺は何事もなかった風を装って、いつもの席に座る。

「うん。勝ったんでしょ?」

結構雑な口調で投げかけてきた。

「おかげさまで。」
「おめでとー。」

沙和は感情を乗せることなくそういうと、テレビに視線を移す。

おばさんが、沙和の分のご飯を運んでくる。

沙和のは、いつもご飯と味噌汁と炒め物といった「普通の夕ご飯」だ。

沙和にとってはここが家の食卓。
いつも親が働く姿を見ながら食べている。

「いただきまーす。」

沙和が食べ始める。

ああ、長かった。
この姿を見れなかった1週間、すごく苦しかった。

毎日来ても俺一人。

話し相手はおばさんだけ。

辛かった。

「なに?」

俺は知らず知らずのうちに、沙和が食べる姿を凝視していたようだ。

「いや、それだけで足りんのかなーと思って。」
「え?」
「メシ。」

言うほど別に少ないわけではない。
けど、他に逃げ道が見当たらなかった。

「はい、定食。」

おばさんが運んできた。

「もう高タンパクスタミナ満点定食よ!」
「ありがとうございます!」

にんにくの香りが食欲を増進させる。
んーーーたまらん。

「にんにくくっさ!」

沙和が笑う。

「こんくらいが美味いんだろうが。」
「えー、今晩しっかり歯磨きなよ?」
「磨くわ!」

俺も笑いながら食べる。

なんでもない会話。
この会話が、先週はずっと欲しくて欲しくて仕方なかった。

もし俺のこと、全く異性として見てなかったとしても、全然好きじゃなかったとしても、こうして毎晩ご飯食べられるなら、それだけで俺は満足だ。
イチャイチャは夢のまた夢。

と改めて思う。

「えー、ちょっとこれにんにく丸ごと入ってんじゃん!ママ!信じらんない!」

沙和が俺の定食に入ってたにんにくを見て叫ぶ。

「いいじゃん、べつに。」

おばさんが言うより先に俺が応える。

「えー、にんにく何個入ってんの?明日息やばいよ。」
「うるせえ。」

沙和が笑う。

その笑顔にすごくホッとする。

ああ、良かった。
またこうしていつも通りのご飯が食べられる日が戻ってきた。
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