イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。

『大丈夫』の魔法


午後6時、雨はいっこうに止む気配がなかったので、私と剣ちゃんは濡れるのを覚悟で軒先から出ると走って屋敷に帰ってきた。

剣ちゃんがすすめてくれたお風呂に直行して湯船にたっぷりつかり、温まってから脱衣所に出る。

すると、そのまま持ってきてしまった口の開いた鞄の中でスマホのランプが点滅しているのに気づいた。

誰かからメッセージかな?

タオルを巻いただけの格好でスマホの画面を開くと、差出人不明のメールが届いていた。

私はゴクリとつばを飲み込むと、メールを開く。


【森泉愛菜様 あなたをお迎えにあがります】


「ひっ、いやっ」


思わずスマホをほおり投げれば、バンッと脱衣所の扉にぶつかった。


「愛菜!」


悲鳴と物音を聞きつけた剣ちゃんが飛び込んでくる。

けれども、タオル1枚しか身にまとっていない私を見て、引き返そうとした。


「悪いっ」


きびすを返した剣ちゃんの背中に、私はとっさに駆け寄って抱き着く。


「お願い、いかないでっ」

「は!? でも、お前……」

「怖いの、変なメールが来てて……」

「変なメール?」


振り返った剣ちゃんは、床に転がっていたスマホを拾うとメールを見て顔をしかめる。


「これ……お前を諦める気はねぇらしいな」

剣ちゃんは悔しげにスマホを握りしめる。

「愛菜、大丈夫だ」

「でも、またさらわれたりしたら……っ」


その場で座り込んで自分の身体を抱きしめると、剣ちゃんが腰を落として目線を合わせてきた。


「俺が大丈夫っつったら、大丈夫なんだよ。言ったろ、守るって」

「あ……」


不思議、剣ちゃんの『大丈夫』を聞くと本当に大丈夫な気がしてくる。

不安が薄らいでうなずけば、剣ちゃんは乱暴に私の頭を撫でてくる。


「ほら、早く着替えろ」

「あ、うん……」


そう返事をしたものの、手足が震えて動けないでいる私に剣ちゃんは視線をそらしつつ口を開く。


「おい、なにしてんだよ」

「ご、ごめんね。身体が……動かなくって。その、震えちゃって」


剣ちゃんはうっとうめくと、しばらく考え込んで渋々顔を上げる。


「ほんっとに、世話が焼けるな!」


新しいタオルを棚から取った剣ちゃんは、横を向いたまま私の髪をふき始めた。


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