明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
初めての恋の味
明治三十八年。

夏の太陽がギラギラと照り付けてきて、少し歩くだけで汗ばむ今日。

子爵真田(さなだ)家に生を受けた私、八重(やえ)は銀座に足を向けている。


「あらっ、もう一時間も経ったかしら?」


四丁目にある時計店の時計塔が音を奏でた。
もう十六時半になったらしい。

スイス製のこの時計は時刻の数だけ音を鳴らし、さらには三十分ごとに一打。

その一打を聞くのは二度目なので、一時間以上この辺りをうろついていることになる。


「銀座は楽しい……」


時計店とは電車通りを挟んで向かいにある高等洋服店に父のワイシャツを取りに行くという仕事を仰せつかったのは、もちろん銀座の街をこうして歩きたかったからだ。

下女に取りに行かせるという母に頼み込んでこうしてここにやってきた。

嫁入り前の娘がふらふら出歩くことをよしとしない両親は、なにか理由でもなければ外出を許してくれないのだ。
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