明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~

「佐木は、自分は医者なのに奥さまの病気を治せなかったと自暴自棄になっていた頃もありました。でも、真田さんがひとりの男性だけを信じ続けている姿を見て、奥さまとの思い出を大切にして生きていこうと思ったとか」
「えっ……」


そんな話を聞いたのも初めてだ。


「おっと、口が過ぎました。余計なことを話すと佐木に叱られる。それでは明日からお願いしますね」


一ノ瀬さんは直正の頭を優しく撫でてから帰っていった。

佐木さんの心に変化があったなんてまるで知らなかった。
しかし……思い起こすと、出会った頃より笑顔が増えた気もする。

特に直正と遊んでいるときの破顔するさまは、まぶしいほどだった。


「直正。今日からここに住むんだよ」


私は直正を抱きしめ、佐木さんへの感謝を心の中で唱えた。
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