明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~

「直正、そろそろ行こうか」


五月に入り、徐々に太陽の位置が高くなってきた日曜の今日は信吾さんも非番で、三人で銀座に向かった。

しかし、乗り物が大好きな直正が、信吾さんの手を握ったまま電車が行き来するのをずっと観察しているのだ。

もう時計塔の鐘が二度高い音を奏でた。
ということは三十分以上もここにいる。


「また来た!」
「あはは。いくつでも来るぞ。直正。父はお腹が空いたなぁ。なにか食べよう」
「うん!」


食べ物につられてようやく電車から離れた直正は、信吾さんの愛に包まれて成長している。


「八重、待たせたね」
「いえ。付き合わせてごめんなさい」
「好奇心を潰すのはよくないからね。でも、この粘り強さは八重に似たのかな?」


苦笑しつつも、直正の頭を撫でている。

それからお肉の大好きな直正のために、牛鍋屋で柔らかいお肉を堪能した。

長い間野菜ばかりの生活をしていたからか、食すときの直正の目の輝きが違う。
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