このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~

“次”

お泊まりの誘いをされたようで、つい、顔が赤くなる。そんなことを言われたら、断れるわけがない。きっと、そんな私の心境なんて彼にはお見通しで、飛び上がりたくなるほどの嬉しさを必死で隠しているのにも、大人な笑みを浮かべた律さんは気付かないフリをしてくれているのだ。


「…いいんですか?私が好きな物を揃えても…」

「あぁ。生活必需品じゃなくてもいいぞ。マグカップでも、クッションでも、好きなのを選べ。百合のセンスに任せる。」

「ええっと…それは困ります。たぶん、この部屋の雰囲気をぶち壊すようなめちゃくちゃファンシーな物ばかりになりますよ?」

「ははっ。それ、いいな。百合がいない時もそれを見ればお前を思い出せる。」


やっぱり、この天然御曹司は、何を言っても揺さぶられない。甘い口説き文句で、軽々と私の出来心のからかいを超えていくのだ。

ーーいつか、こうやって二人でいるのが当たり前になるのだろうか。


”…戦略的な交渉は長期的に行うものだ。”


かつて、私を嫁にすべく迫っていた時の彼のセリフ。まんまと彼の策略に落ちてしまった私だったが、“こんな日常も悪くない”なんて思ってしまっている。

結局、私はこの男には敵わないのだ。


ーーそしてこの日から、彼のスタイリッシュなマンションにはそぐわないピンクの歯ブラシと花柄のマグカップが居座ることとなったのは、言うまでもない。

< 121 / 168 >

この作品をシェア

pagetop