人生の続きを聖女として始めます
現代 木嶋樹里(ジュリ)
「いやぁぁぁぁーーーー!!」

誰もいない空間に片手を伸ばし、何かを掴む。
そしてハッと目を開けると、拳を握った自分の手が見えた。
ゆっくり体を起こし、強く握った指を一本一本広げていくが、当然中には何もない。

「また……あの夢………」

私は小さく呟いた。
幼い頃から、同じ悪夢を繰り返し見た。
夢の中の自分はどうやら子爵令嬢で、わけありの王族と恋に落ち、そして別れ、後に子供も奪われ、非業の死を遂げるという恐ろしいものだった。
その非業の死は、生々しくとてもリアルで、見るたびに絶叫して起きてしまい度々両親を心配させた。
夢は大きくなるにつれて見なくなる、という医者の見解は大きく外れ、17歳になった現在は2日に一度は見るまでになっていた。

樹里(ジュリ)っ!?大丈夫?また見たの?」

ルームメイトの亜果利(あかり)がノックもなしに顔を覗かせた。
美術商を営む両親は多忙で、ほとんど日本にはいない為、私は全寮制ミッションスクールの聖フィオーナ学園を選んだ。
良家の子女が通うこの学園は、女子校で設立も古く伝統があり、お金持ちで忙しい両親を持つ子が沢山いる。
木嶋家も幸いお金には苦労しておらず、授業料のかなり高い私立でも、すんなり了承が出た。

「亜果利……うん、ごめん……起こしたよね?」

「いや。私はいいんだけど、こんなんじゃ樹里がもたないよ……」

「そうだね……」

俯く私の側に腰掛け、亜果利が優しく背中を擦ってくれる。
彼女、亜果利・F・西宮とはアーチェリー部で出会い、偶然寮で同室になった。
聖フィオーナ学園の理事長の遠縁にあたり、北欧系の血が混ざっているためかモデルのような超美人。
でも、そんな風貌とはうって変わって面倒見が良くお人好しで、私のことを一番に心配してくれる親友である。
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