人生の続きを聖女として始めます

レーヴェに子守唄を歌ったその夜から、何故かエスコルピオの態度が変わった。
例えばレーヴェが一緒に昼食を取ろうと誘って来たときも、前ならとても嫌そうに文句を言ったのに、今では「わかりました」と言うだけ。
しかも、その声が優しいからまた怖い。
こんなに態度を変えられると、何か裏があるのかと勘繰るわよね。
油断させておいて、後ろからグッサリ……。
結局あの殺人未遂?の真相はわからず仕舞いで、早4日経ってしまっていた。

「ジュリ様、食後は焼き菓子に致しますか?」

鉄仮面の護衛騎士は、慣れた手付きでトングを握り、銀製のトレイから芳ばしい香りの菓子を一つ摘まんだ。
掠れた声で丁寧に喋る彼が、懐かしい誰かの仕草と被る。
だけど、それはあり得ないこと。
だって、彼は……デュマはあの夜死んだのだから……。

「あ、ええ、はい……頂きます」

エスコルピオから目をそらし、真向かいで微笑むレーヴェに視線を落とすと、私はミルクティを少し口に含んだ。
レーヴェの態度はあの夜から少しも変わらない。
変わったことと言えば、夜に悪夢を見て泣き叫ぶことはあれから一度もない、ということだ。
4日しか経ってないし、絶対起こらないとは言えないけど、少なくとも安眠出来る夜が続いているというのは良いことだと思う。

「お母様はどんなことが得意なのですか?」

レーヴェがニッコリと微笑んで尋ねた。
彼は私のことを、遠慮せずに「お母様」と呼び始めた。
それも、あの夜から変わったことの一つだ。

「え、私?そうねぇ……アーチェリー……弓、かな?」

「弓!?」

何故かレーヴェとエスコルピオが同時に叫んだ。

「う、うん。なに?どうしたの?変?」

びっくり顔の私の前で、レーヴェは好奇心を隠せないように身を乗り出した。
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