溺愛アフロディーテ 地中海の風に抱かれて
第5章 受胎告知、楽園追放
 目を開けたとき、私は横向きに寝ていた。

 淡い光の中に沈んだ部屋の様子が目に入った。

 一瞬状況がつかめなかった。

 体を起こすと、背後に男が寝ていた。

 大里健介……。

 ああ、そうだ。

 私はこの男に身をゆだねたのだ。

 いつの間にか終わっていたのか。

 どうやら眠ってしまっていたらしい。

 部屋にはベッド脇の小さなフットライトだけがついていて、窓の外は暗く、あいかわらず雨がまばらな音を奏でていた。

 彼を起こさないようにベッドから抜け出して寝室の外のバスルームへ行った。

 ライトをつけると、壁一面の鏡に下着姿の私が映った。

 下着を脱ぎ捨てて浴槽にお湯を張る。

 鏡に映った自分の裸体を見る。

 私は何をされたんだろうか。

 彼にどんなみだらなことをされたんだろうか。

 これが私の望んだことなのか。

 涙が止まらなかった。

 まだ半分しか貯まっていない湯船に入って、手ですくいながら肩にお湯をかける。

 馬鹿な私。

 胸の奥から吐き気がこみ上げてくる。

 比喩的な意味ではなかった。

 本当に体の中が震えて、食道が痙攣しながら吐き気がこみ上げてきたのだ。

 私はあわててバスルームの便器に駆けていった。

 思えば朝食から何も食べていなかったから、実際には胃が痙攣しただけで何も出てこなかった。

 どうやら空腹過ぎてちょっと貧血気味になってしまったようだ。

 そういえば、グミを一つ食べたっけ。

 幸い、いったん通り過ぎた吐き気はぶり返してくることはなかった。

 鳥肌のたつ体をお風呂で温める。

 馬鹿な私。

 取り返しのつかないことをして……。

 でも、なんで私は下着を身につけて寝ていたんだろう。

 済んでからわざわざ下着だけ着たのかな。

 何も覚えていない。

 体が温まってきて、少しずつ眠気がさえてくる。

 でも、やはり何も思い出せない。

 全身をくまなく洗い流す。

 あの男の痕跡を残したくはない。

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