バッドジンクス×シュガーラバー
1:男嫌い地味OL×強面上司
4月はいつも憂鬱だ。
別に、春そのものが嫌いなわけじゃない。
通勤途中にある桜並木は通りかかるたびに見上げてしまうほど綺麗だし、贔屓にしている洋菓子店の春期限定桜ロールケーキも、毎年とても楽しみにしている。
私にとって、4月が憂鬱な理由は──……。
「……今日付けで広報室から異動になりました、入社4年目の小糸です。よろしくお願いします」
あらかじめ頭の中で予習していた何のおもしろみもない自己紹介に、辺りからぱらぱらと拍手が起こる。
ペコリと一礼し、そのまま自分のパンプスのつま先をじっと見つめた。
隣に立つ植田本部長が、私からデスクの社員たちへと視線を戻す。
「小糸さんには、今後スイーツ部門で活躍してもらおうと思います。彼女が慣れるまで、しっかり周りがフォローすること。今日からまた新年度が始まるわけだけど、みなさん、切磋琢磨しながらいい仕事できるようにがんばりましょう」
植田本部長がそう締めくくって、私の異動後第1回目の朝礼は終わった。
いつもかけている黒縁メガネのズレを直し、小さく息をつく。
それから、自分にあてがわれたデスクに腰を下ろした。
「ねぇ、小糸さん」
左隣からそう声をかけてきたのは、私より少し年上に見える女性社員だ。
背筋を伸ばしながら「はい」と返事をして、顔を向ける。
「あは、緊張してるねー。私は、小糸さんと同じ【COSMY×TIME】のスイーツを担当してる浅村えみりです。今後よろしくね」
ニコッと人好きのする笑顔で、浅村さんが片手をひらひらさせた。
焦げ茶色のパーマがかった髪をひとつにまとめた、サバサバした印象の人だ。私はちょっとだけ肩の力を抜く。
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