バッドジンクス×シュガーラバー
4:強面上司の独白×美女と猫
「あっ、久浦部長ー!」
4月ももうすぐ終わりを迎えようというある日、昼下がりの午後のこと。
社内の喫煙ブースのそばを通りかかった俺を、ちょうど中から出てきた部下の男が呼び止めた。
立ち止まって、石田というその男を振り返る。
石田は小走りに目の前までやって来ると、機嫌良さそうに笑いかけてきた。
「お疲れさまです! 部長は、今日の歓迎会来られるんですよね?」
「ご苦労さま。ああ、行くつもりだ」
俺がうなずけば、石田はなぜか小さくガッツポーズをする。
「よかった~! じゃ、そのときにまた、前当ててもらったディナークルーズの件で相談させてもらいますんで! よろしくお願いしまーす!」
一方的に言いたいことを言って、そのまま石田は傍目にも浮かれた足取りで去って行く。
相談……? 例のクルーズで彼女にプロポーズする予定だとか言っていたが、まさかその件か?
俺自身これまでにプロポーズの経験なんてないのだから、アドバイスを求められたところで気の利いたことなんて言えないんだが。
……にしても、石田はチケットの当選がわかって以降、羨ましいくらいずっと機嫌が良いな。
小さくため息を吐いて、右手の親指と人差し指を使い自分の眉間を揉む。