りーんりーんと虫の声だけが鳴る晩夏の夜のことだった。
村で唯一の神殿の裏庭で、よいしょよいしょと瓜を抱えて歩く少女が一人。
月明かりだけを頼りに井戸の方へと向かってゆく。
細い体に不似合いなほど大きな瓜を時折落としそうになりながら、よたよたとおぼつかない足取りで歩んでいる。
ようやく井戸の側まで来た少女は足元にそっと瓜を下ろすとホッと息をついた。
額の汗を手で拭うと粗末な服の胸もとを掴みパタパタとさせる。
暑そうに頭の頭巾を脱ぐと、月光の下に赤金色の髪の毛が散った。
少女の名前は、フェデリカ。
このデルワリ村の神殿で下働きをしている孤児である。
教会の司祭はもはや人生の曲がり角を何度も曲がった老齢の男で、フェデリカは物心ついた頃には彼と二人でこの神殿にいた。
自分の父や母がどこの誰で、兄弟がいるのかいないのかも知らない。
知っているのは自分が今年十歳になることと、フェデリカという名であるということのみ。