朝の謁見を終えた新皇帝ヴィンセントには、することが一つある。
今宵の予定の調整、すなわち後宮にいる妃達の中で今夜どの姫の部屋を訪れるかを決定することである。
後宮侍従長のルシアン曰く、恐れ多くも皇帝陛下をお迎えするのであれば、その支度には半日以上の時間がかかるので、朝のうちに今宵の訪れの知らせをやらなくては間に合わないというのだ。

「陛下、今宵のお渡りのご指示をくださいませ。」

ルシアンは、ねっとりとした視線をヴィンセントに向ける。もともと明るい男ではないが、ここのところ前にもまして雰囲気が暗い。
ヴィンセントの足が後宮に向かないのは後宮侍従長のせいだと謗られているせいだろう。
ヴィンセントはそれを申し訳なく思いながら、毎日同じ言葉を繰り返す。

「今宵はそちらへは行かない。…皆によろしく伝えるように。」

ルシアンは上目遣いでヴィンセントを見上げる。

「…陛下…皆さまお待ちでございます。…どうかお情けを。」

「ルシアン。先だってから言っている通り私の考えは変わらない。…たとえ、私が後宮へ行かなくてもお前が責任を問われるととはないと約束する。…安心しろ。」