異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
第一章 和菓子のない世界で「みたらしだんご」~夏の終わり
王都ヴィッツの中心を走る大通りは、ヴェルヌ王国の勢いを良く表している。広く長く、しかもまっすぐ王城へ向かう通りの両側では、大きな店が華やかに軒を連ねていた。人の行き来も多く、他国からの商人や旅行者などで大通りは常に賑わっている。

道そのものも赤いレンガで整備されていて、国全体を縦横に走る街道も同様だった。

城から見て、中心の大通りを境にした左手側には貴族や議会の重鎮、それに豪族などの屋敷が建ち並ぶ。富裕層の住まう場所だ。

右手側には庶民が大小さまざまな家に住み、比較的広い通りと複雑に交差する小道で成り立っている。

大通りから外れた通りでも、庶民向けの中小の店舗が並んでいて十分華やかな場を構成していた。この辺りまでなら、王城の衛兵たちが巡回しているので安全性も高い。

そういった市民向けの店舗の中に、和菓子屋“テツシバ”がある。

三年前に越してきた店で、異色な菓子“和菓子”を提供する。“和菓子”を作っているのは、王国広しといえどもこのテツシバだけに違いない。それほど、今までにない類の菓子だった。

主商品はだんごで、見た目にも高級そうな生菓子という物が出ている。たまにまんじゅうとか呼んでいるものや、芋の菓子も作るようだ。

店主は若い女性で、近所に住む人々は“メグ”と呼んでいた。













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