「おいっ。恵っ、髪を纏めろ。走るな」

そういうときは、父親である志波哲二の叱責がすぐさま飛ぶ。

ひゅっと肩を竦めた恵は、長い髪を無造作に頭の後ろで括って、息をひそめながら父親が上新粉を捏ねるのをそぅっと見たり、丸めるのを手伝ったりした。

あんこを中に入れて丸くしてゆく豆大福は大好物だ。もっとも、売り物になるほど良い形にならないので彼女が仕上げたものは自分の口の中に入る。

「父さん、あんこ美味いよ!」

「まぁな。自慢のあんこだ。いいか恵。和菓子っていうのはな、あんこがキモだぞ。好きだと言うなら味の違いも分かるだろう? うちのあんこの味を覚えておけよ」

「うん!」

元気いっぱいに返事をして顔を上げれば、手は粉だらけで頬にはあんこの欠片がついているといった具合だ。