異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
ようやくまともに声を出せるようになったメグミは、深々とお辞儀をした。

「ありがとうございます。先生。これでもう大丈夫でしょうか」

「心臓が弱っているね。発作を押さえるためには、継続的に薬を飲むしかないな。完治するとは思わず、これ以上悪くならようにすることだよ。つまりは、まぁ、無理をしないことだ。悩んで思いつめるのもよくない」

「無理をしないこと、思いつめないこと、ですね。分かりました。それではお薬をいただけますか」

医者は言い難そうに『この薬は高価なのだよ。少しずつ渡そう』と、手持ちのカバンから小型の紙の袋を出し、さらにそこから紙の小包を五個渡される。

「一日一包で五日という計算だ。発作が起きたときも飲む必要があるから、この先もっとたくさん必要になるだろうね」

そして告げられた金額に、メグミは唖然として口を開いた。

「十五万バラレル! ……一包が三万ですか」

“バラレル”は、ヴェルム王国の通貨単位だ。一万バラレルがちょうど一万円くらいだろうか。一か月の生活費が二十万バラレル程度だから、生活費すべてを出しても一か月分の薬を調達できない計算になる。

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