Sync.〜会社の同期に愛されすぎています〜

後悔(瀬戸口泰生)

こんなつもりじゃなかった。
翠のあんな泣き顔と軽蔑をした顔なんて見たくなかった。
10年以上、グズグズした挙句こんな結末で終わるなんて馬鹿げている。
どんな言葉から始めれば翠は許してくれるだろうか。

翠の自宅まで辿りつき彼女に電話をしようとすると、杉原という男とともに家から出てきたのを確認。
杉原は翠の両親ともとても親しげにしている。

俺でさえ話したことがないのに。

両親が家に入ってからも翠と杉原は外で話をしている。
あの日、翠のことを待ち伏せしていた。

追い返したはずなのにこんな風に親しげにあっていると思わなかったし、
俺たちが付き合っている間も、連絡を取り合っていたのかと思うと裏切られた気分だ。



杉原は、周りを確認しながら翠を車に乗せた。俺が子供の頃集めていたミニカーの1つの高級車を乗り回すのがとてつもなく腹立たしい。
それから間も無くして車が動き出したため俺は怪しまれぬよう追いかけた。
住宅街のためそこまでスピードは出ないため、なんとか車を追うとスーパーの駐車場にたどり着いた。食料を調達してからホテルへ向かうという考えなのだろうか。
しかし、車から二人は降りることなく停車したままだった。俺は嫌な予感がして車内を怪しまれぬように覗くが二人は神妙な面持ちで会話をしているだけだった。
その会話は15分ほどで、翠だけが車を降りて杉原は去っていった。
俺は見つからないように影に隠れると、翠はスーパーの中に入っていった。
いったい二人の中で何が会ったのだろう。


「瀬戸口さん、何してるんですか?」
そう声をかけたのは厄介な人物である西木だった。

「別に」と返答しても怪しさは隠しきれない。


「あ、あの人知ってる。この前、あの人の会社の人と飲んでた時に一緒になったんですよ。」
翠の両親が公認する関係になりながら女がいる(ましては西木みたいな女がいる)飲み会にのこのこくるような男に腹がたつ。

「それにあの人既婚者ですよ。後輩に誘われて来ただけ・・・みたいな」

思わず俺は身体中の力が抜ける。
翠は不倫をしていたと言うことなのか。
ますます意味がわからない。

「瀬戸口さんって本当にヤル時、相手の顔見ないんですね。私、瀬戸口さんとやったことないのに・・・
だいぶ動揺してましたね。あなたとセフレだったのは私じゃなくて私の姉ですよ。」

「は?」
俺の反応に対して、含み笑いを続ける。
(お前が余計なこと言うせいで、今日翠に幻滅されたんだぞ。ふざけんな。)


「姉が彼氏がイケメンってすごく自慢して写メ見せてもらったことがあったんですよね。でも一回も付き合うとか好きとか言われたことないのにずっと彼氏だと思い込んでてて笑えますよね。
それにしても、まさかK大の「エモ口」が同じ会社にいるだなんて思いもよらなかったです。あんなダサかったら普通に気づかない。」

「俺、基本名前も顔も覚えてないし・・・でもそういう厄介な人いたかもな。おまえみたいなやつな… で・・・なんなの?どうしたいわけ?」

「いや、単純に今泉さんが苦手だけです。美人で仕事できて男にモテて完璧すぎるから。」

「お前ら姉妹どんだけ歪んでんだよ。大丈夫かよ」

「まあ、姉も丸くなりましたけどね。今、株で儲けつつ会社やってる金持ちと結婚間近だとか・・・
よかったですよ。こんなくよくよした男のこと追いかけ続けてないで。」

「うるせーよ!!!」

こんな女の言葉にムキになっている場合じゃないけれどイライラする。
翠は俺を選ばずにあの男を選んだのだから。


次の日、出社すると翠はあからさまに目を合わせず業務的な内容しか話をしない。
後悔ばかりが募る。ここまで片思いを引っ張っておいて力任せに翠が嫌がることをした自分が情けない。
それでいてあのまま車でどこに向かったのだろう。
きっとあのままあの男に処女を奪われたに違いない。




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