Sync.〜会社の同期に愛されすぎています〜

卒業(今泉翠)

付き合ったはいいものの一向に前に進もうとしない私に痺れを切らした瀬戸口が、
「次のシフトの休みが被ったらその前の日は俺の家にお泊まりね」と言い放った。
硬直した私に瀬戸口は

「大丈夫、下心があるわけじゃなくてただ一緒にいたいだけ。普通に映画とか見てお酒飲むだけだよ。」

「なんか、それ学生の時によくされたナンパみたい。安心させてるつもりでも本心はヤル気満々のやつ。」

「おいそういうこと言うなよ。てゆーかそんな風にナンパされてたの?そいつらと俺を一緒にしないでよ・・・」

逆に、瀬戸口もそうやって女の子を安心させておいて体の関係に至っていたのかと少し不信感を抱きそうになったが深く考えないことにした。私への片思い期間に免じて。

数日後、来月のシフトが出された時に、月初から綺麗にシフトが重なっており私は瀬戸口が何か手を回したのでないかと疑うほどだった。

当日仕事が終わり、珍しくお互いに残業をせずに会社を後にした。
後に一大イベントが控えていると言うのに仕事に集中できるはずがなかった。


お互いに食べたいものとお酒を買い俺の部屋の前に着くと緊張が一気に押し寄せる。

「そんなに緊張するなって・・・とりあえず一緒にご飯食べよう。」

と優しい声で言った。
相変わらずセンスのいいインテリアで統一された空間と、生活感のないすっきりとした部屋に男らしさを感じてしまう。

(これは部屋に呼んだらどんな女でも落とせるな・・・)

ソファで隣同士に座って、仕事の話をしながらお酒を飲むと少しだけ緊張がほぐれた。


「お風呂先に入って来なよ」

「うん・・・」

瀬戸口の家でシャワーを浴びる自分などこの会社に入社したての自分が想像できただろうか・・・
自分のシャンプーや洗顔は一通り持ってきたが、なんとなくボディーソープは借りることにした。
瀬戸口は、シャンプーやボディーソープをそのまま使うのではなくオシャレなポンプに詰め替える派だった。
そのため、何のボディーソープを使用しているか分からなかったが、今日は瀬戸口と同じ香りに包まれたいと思ってしまう。
きっとこれからこの先、この香りと出会った時にこの夜ことを思い出すのだと思う。
それぐらい香りというの記憶に残るものだ。
瀬戸口が最初で最後の男だったとしても、そうでなかったとしても・・・


お風呂から上がり、ドライヤーを探したが引き出しを勝手に開けるのも気が引けたため瀬戸口にドライヤーを借りると変によそよそしくて、それが一層緊張感を高めていく。

(もうすぐ卒業するんだ・・・)

しばらくして、お風呂から上がった瀬戸口は白いTシャツに黒のスウェットで髪をタオルでゴシゴシしながら現れた。腕を上げているためおへそのあたりがちらりと見えた。
意外にも割れている腹筋と、濡れた髪。私が借りたボディーソープの匂い。
私の体からも同じ匂いがする。

(酔いそうだ・・・瀬戸口に・・・)


「じゃあ、寝ようか・・・・」

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