Bloody wolf
歯車はゆっくりと廻り始める

彼の世界と私の世界

「昨日ぶりですね」

と助手席から振り返って笑うのは秋道。

晴成に連れてこられた場所には、あの黒塗りの車が停車していて、有無も言えないまま後部座席に押し込められた。


「そうですね」

晴成に後部座席に押し込められたムカつきをそのままに不機嫌な声で返す。


「晴成が何か悪さをしましたか?」

くすりと笑った秋道に、

「後部座席に突き飛ばされた」

と答える。


「仕方ねぇだろ。響が乗るのを躊躇したのが悪りぃ」

「・・・・・」

なんて言いぐさだ。

確かに、これに乗ったら不味くない? と一瞬戸惑ったけど。

別に乗らないと駄々をこねた訳じゃないわ。


「晴成、女性には優しくするものですよ」

諌めるように晴成に言う秋道は苦笑いだ。


「俺は優しくしてる。さっきだって背中を押しただけだろうが」

「押しただけですって?」

シートにぶつかりそうになったのに、ふざけんな。


「まぁ、そう怒んなよ」

ポンポンと頭を撫でられて、

「気安く触んな」

その手を払い除けた。


「相変わらず、気がつえぇ」

そう言いながらもどこか嬉しそうな晴成は、きっとMに違いない。


「煩い」

ふんっとそっぽを向く。


「ククク・・・溜まり場に向かえ」

何が面白いのか声をあげて笑った晴成は、五郎丸君に向かって出発の合図を送った。


「了解しました」

返事をした五郎丸君はゆっくりと車を発信させる。

動き出した車は、闇を振り切るように走り出す。


窓から流れる景色を見つめながら、早まったかも知れないと思った。

食事につられてついてきてしまったけれど、ウルフの溜まり場なんて行くのはあまりいいことじゃない。

フードは絶対に外さないと心に決める。

晴成達の居場所に踏み込む事の重大さに今気付く。


橋の上で晴成に抱き締められた時、それまで私を包んでいた寂しさが消えた。

それと同時に思い出したのは、暴走中の彼らがとても楽しそうだったこと。


だから、溜まり場に誘われた時に、思わず頷いてしまった。

あの光の集団にぞくぞくした感覚をもしかしたら味わえるのかも? と思ったのは間違いない。


関わりたくないと思う反面、彼らの世界を羨ましいとどこかで思う。

そして、少しだけそんな世界を知りたいと言う欲求が私を頷かせたんだ。
< 78 / 142 >

この作品をシェア

pagetop