いつか、きっと。
始まりの雨
「荷物運び終わるまで、降らんでよかったー」

引っ越しを終えた運送屋さんが帰ってから、降りだした雨。

『なにもこんな日に降らなくても……』なんてお母さんは不満げだったけど、私はこんな風にシトシトと降る雨が嫌いではなかった。

荷物は追々必要な物から出していくってことで、私は自分の荷ほどきもそこそこに『散歩してくる』と言って外に出てきた。

いまは春休み。

まさか小学校生活最後の6年生になる前に転校することになるなんて、思ってもいなかった。

そんなに遠い距離ではないけど、引っ越し先では小学校区が変わるという訳で止む無く転校することになったのだ。

そもそもどうして引っ越しなのかというと、お父さんが帰って来たから。

五年間単身赴任していたお父さんが長崎に戻り、家族一緒に社宅のアパートで暮らす事になったそうだ。

五年間過ごしてきたお婆ちゃんの家に私だけでも残れば転校せずに済むんじゃないかと考えたけど、そんなに甘くはない。

せっかく家族そろって暮らせるようになったんだからと、私の意見なんて聞き入れてくれないし。

『お婆ちゃんだって家族じゃないの』なんて反論したところで意味はないのだ。

「あーあ、友達できるかな?早く中学生になりたいな……」

中学では元の小学校の友達と一緒になれるはず。

一年間我慢すれば、また親友と同じ学校に通えるんだから。

考え事をしながら歩いていると、どこからか微かに犬の鳴き声が聞こえてきた。

少し離れたところにある公園からかもしれない。

ちょうどその公園には行ってみようかと思っていたところだった。

大きめの広場があり、階段を少し上った奥のほうに遊具が見える。

たまに聞こえてくる「ワンワン」という可愛らしい犬の声を頼りに、公園の中に入って行った。

ブランコ、滑り台が見えるけど、犬の姿は見えない。

木があって見えにくいけど、その奥にあるのはジャングルジムらしい。

そのジャングルジムに近付くにつれ、ハッキリと聞こえてくる「ワンワン」という犬の鳴き声。

間違いない、そこに………。

「いた!」

私の目に飛び込んできたのは、可愛らしい子犬……。
と、ひとりの男の子だった。

「もしかして飼い主?良かった。雨に濡れて可哀相やけんちゃんと連れて帰って」

え?なんか勘違いされてる。

まるで私が雨の中はぐれた飼い犬を探しにきたみたいだ。

「ちょっと待って!違うよ、連れて帰れんよ……」

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