夜が明けるとき ~続・魔法の鍵と隻眼の姫
悲しみと嫉妬
目が覚めて呆然とする。
自分を覗き込む顔、顔、顔…
「ラミン!目が覚めた!?」
「ミレイアは!?ミレイアはどこにいる!?」
「ガゼント様も見当たらない、二人で安全なところに逃げてるのか?」
ハッとして勢いよく起き上がったラミンは痛む頭を抑え叫んだ。
「…あいつが…攫われた…ガゼントは、敵だ!」
「何じゃと!ガゼント様が…」
「行かなきゃ…あいつが…」
そんな馬鹿な!と信じないモリスデン達を置いてベッドから降りようとするのをドリスター公爵が止めた。
「待てラミン、状況を説明しろ。お前にはその義務がある」
聞けばあの時舞踏会会場でも明かりが消え大騒ぎになっているところを誰かの声が響いて来たと言う。
この部屋には各国の国王たちもいてその時の状況を思い出し青ざめている。
『愚かな人間どもよ…例え国同士が団結しようとも人々の中に憎悪がある限り私は何度でも復活しこの人間世界をぶち壊す…人間の心ほど脆いものは無い。覚悟しておけ…』
宣戦布告。
グラージャはやはり復活したのちこの世界を壊してしまうのが目的だろう。
その前に復活を止めグラージャを完全消滅させなくてはならない。
そしてラミンも先ほど起こった一部始終を話した。
ガゼントは2000年経った今もグラージャの側近、倒すつもりなどなかった。
人間達の仲間を装い、グラージャをラミンに潜ませ情報を操作しながらヴァルミラの捜索、復活の時を狙っていた。
「ヴァルミラが姿を消して誰もその居場所が分からないと知って最後の手段に出たという訳か…」
重い空気が部屋中に立ち込める。
何も疑うことなくガゼントを引き入れてしまった。
少しでも怪しい態度を取っていたなら誰かが気付いただろうが、ガゼントは完璧に皆を騙し信頼を得ていた。
「ミレイアは、今どこに…」
サリア王妃の悲痛な呟きに顔を上げたラミンは立ち上がった。
「ノーゼス国、おそらくはグラージャのブローチが落ちていたという山にあいつはいる!」
涙を流し自分の名前を何度も叫んでいたあいつが俺の心の中にいる人物と重なった。
まだ完全に思い出したわけじゃない。
それでもあいつを助け守るのは俺の役目…俺しかあいつを守れない!
「っつ…」
痛みが走り額を押さえた。
少し残る頭痛。
それも大半はミレイアが額を合わせたあの一瞬で癒してくれた。
これくらいの痛みでへこたれてる場合じゃない。
拳を強く握ったラミンは集まる皆の顔を見回した。
「今すぐにでもあいつを助けに行く」
「僕も行くよ兄上」
「僕も」
「私も」
手を上げたのはエルストン、セイラス、トニアス、モリスデン、ルシアン、キースもいた。
「まあ待て、準備をしてからじゃ」
「我々も及ばずながら兵を出して追いかけよう。我が国が戦場となるのをただ指をくわえて見てるわけにはいかない」
ノーゼス国の王が静かに言う。
「この世界は我々の手で守らなければ」
各国の王たちも力強く頷きそれぞれ役目を果たすために部屋を出て行った。