夜が明けるとき ~続・魔法の鍵と隻眼の姫

グラージャの正体


「おや、起きたかね?眠り姫」

「ガゼ…、グラージャ」

簡素な敷物に寝かされいたミレイアが目を覚まし起き上がると、目の前にはガゼントが立っていた。
その表情は邪悪に薄ら笑いを浮かべグラージャが乗り移っていると容易にわかった。

「さて、そろそろお前を奪い返しに奴らが来るだろう。返り討ちにしてやるがな。長年の恨みを晴らす時が漸く来たのだ」

フフフフ……と不気味に笑うグラージャが過去で見てきた優しい少年と結び付かなくてミレイアはじっとその顔を見つめていた。

「…なんだ」

笑いが止まりギロリと睨まれ臆したもののミレイアは立ち上がり両手を握り締め思いきって疑問をぶつけてみた。

「あなたは…子供の頃はとても優しかったのになぜそこまでヴァルミラ様達を恨むの?」

「なんだと?」

低く唸り声を上げたグラージャはミレイアを見据え恐ろしさで震えそうな手に力を込めた。

「夢であなた達の過去を見たの。あなたとヴァルミラ様とガゼント様はとても仲が良かったはず。なのに100年後あなたは世界まで壊そうとした。それはなぜ?ヴァルミラ様に対する嫉妬だけでそこまでするの?」

「生意気な小娘が何を見たと言うのだ…私の絶望がどれ程のものかお前に分かるか!」

カッと見開いた黒い瞳は燃え上がるように怒りを現しグラージャはミレイアの首を掴み締め上げた。

「く…ぁ…」

苦しむミレイアをおぞましい形相で睨むグラージャの手が更に力が込められようとした時、ふっと力が弱まり解放され、げほげほと咳き込み倒れそうになった。

「だから、あまりグラージャ様を挑発するのは止めなさい」

「う…ガゼント様?」

咄嗟に支えられ倒れずに済んだ頭上でため息混じりの声がする。
体勢を立て直したミレイアの前には眉根を寄せたガゼントが立っていた。

今、ガゼント様は助けてくれた…?

やはりガゼントは敵ではないと思いたかったが、その隣に黒い靄のようなものが浮いていて中心にオパールのブローチが輝いているのを見てミレイアは固まった。

『ガゼント、邪魔をするなと言っておろう』

「今ミレイアを殺せば奴らは好き放題暴れますよ?人質は有効に使わないといけません」

『ふん、生意気言いやがって…』

黒い靄のグラージャと話すガゼントは冷たい目をしていて、味方と思いたかったミレイアは落胆を隠せなかった。

「さて、そろそろ外に出るとしますか。奴らが来るころです」

ミレイアの手を掴みエスコートするように歩き出すガゼントに力なく付いて行くミレイア。
舞踏会では素敵なガゼントにエスコートされただけでドキドキしていたのに、今は絶望と恐怖しか浮かばない。

冷たい風が吹き抜け外に出たのだと気付く。
まだ真夜中。月明かりに照らされ微かな光りを頼りに辺りを見ると、崩れた山の中にある洞窟から出てきたのだとわかった。
強い風が時折通り過ぎミレイアの長い髪が流される。
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