夜が明けるとき ~続・魔法の鍵と隻眼の姫
別れ
2000年前。
あの戦いで姿が無くなっても怨念が増していきそのままでは本当に世界を包み壊しかねなかった。
自分の力が足りなかったばっかりにグラージャを怨念を持ったまま封印するしかなかったガゼント。
いつか、封印は解かれる時が来る。
その時には力を付けた自分が完全にグラージャを鎮め安らかに眠らせてあげたいと心に誓っていた。
師であり友であったグラージャをここまで怨念に取りつかれた亡者としてしまったことに責任を感じていたのだ。
それは、ヴァルミラも同じ。
師であり兄と慕ったグラージャを嫉妬と欲に溺れさせたのは自分。
ただ、グラージャの愛を知っていながらも兄と慕う彼の愛を受け入れることは出来なかった。
わが愛は永遠にクリスリードのもの。
グラージャが狂気を現す前にもっと違う道があったのではないかと後悔していた。
「2000年の間に解決法を探して行き着いたのは、あなたの力は無限大、だから怨念と共に力を放出させなければなかった。その呼び水にアドラードの髪の毛を使いたかったのだがヴァルミラが了承してはくれなかった」
「当たり前じゃ!我が愛息子の髪を使うなど言語道断!バカなことを申すな!」
「まったく、親ばかにもほどがある。髪の毛ぐらいでガタガタ言うな」
「何じゃと!」
睨み合う両者。
二人が会えばいつもこうだ。
「ラミンが機転を利かせて自分の髪の毛を捧げてくれたから良かったものを」
「ならそれで良いではないか!何が不服じゃ!」
『おいお前ら…私の頭の上で言い争うな!頭がガンガンする!』
もう力も尽き果て動けないグラージャは渾身の一喝を二人に浴びせる。
思わずグラージャに目をやった二人は頬を膨らますグラージャにぷっと吹き出した。
「クククッ…懐かしいですな」
「あの頃はいつもグラージャを挟んで言い争いをしておった」
『私の背を越したお前たちが頭の上でガーガー言い合うから私はいつも頭痛がしたぞ』
フッ…とグラージャも口元を緩めた。
懐かしい遠い記憶。
3人仲良くいつまでも暮らしていけると思っていた…。
「また世界を壊そうなどと、大それたことをしおって…」
『ふん、お前が私の想いを受け入れないのが悪い』
「またそれを言う。何度も言っておろう。そなたは我の師であり兄じゃ。家族愛しか持ち合わせておらぬ」
『それでも…私はお前が欲しかった…』
俯くグラージャは肩が震えてるようにも見える。
思わず3人に見入っていたミレイアはグラージャを悲しそうな目で見つめる。
「魔物と呼ばれる我らは生涯ただ一人を愛し抜く生き物とそなたが教えてくれたのであろう。例外はあるがな」
そう言ってヴァルミラはガゼントを睨んだ。
ガゼントは知れっとした顔のままだが、その定説は彼には当てはまらないんだとその場にいる誰もが悟る。
「もういいだろう。我ももうすぐ消える身。グラージャ、そなたももう眠るといい」