夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
・いきなり初夜ですか?
 結婚式は教会で、ウェディングドレスを着てするのだと思っていた。
 なのにどうして私は今、神社で白無垢を着ているのだろう。
 チラリと隣を見てみる。
 これから私の夫となる人が紋付羽織袴を着て正面を見つめていた。

(この人は自分が何をしているのか、分かってるんだろうか……)

 そんなことを考えていると、彼の視線が私の方へと移る。
 涼しげな目元に、落ち着いた眼差し。こう間近で見ると意外にまつ毛が長いのが分かる。悔しいほど整った顔立ちはいつ見ても惚れ惚れしてしまう。
 けれど、こういう時に浮かべているであろう表情がない。
 緊張も、喜びも、その他、結婚式にふさわしいものは何も。

(……分かってる。これはあなたにとって『仕事』なんですよね)

 愛も何もない――契約結婚。
 彼の申し出を受け入れたのは他でもない私自身である。

(別にいいの。これで全て上手くいくなら――)

***

 私、袖川奈子(そでかわなこ)と倉内春臣(くらうちはるおみ)はこうして形だけの結婚式を終えた。
 多くの人と接し、どうしても固くなる笑みを浮かべ続けたせいで頬が引きつっている。
 ようやくすべてが終わり新居に帰ってくると、やっとまともに息ができた。
 相変わらず、この家は寒々しい。
 おそらく、私たちの間に流れる空気のせいだろう。
 特に言葉を交わすことなく眠る準備を整えた後は、先に向かった夫を追うようにして寝室へと向かう。
 ベッドはたったひとつしかない。
 スイートルームでしかお目にかかれないようなキングサイズのそれは、もちろん私たち夫婦がこれから夜を共にする場所である。
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