夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
・そんなプロポーズってありますか?
 話がまとまるのは早かった。
 部長がすぐに例の体育会系の友人へ連絡を取ってくれたからだ。
 部長も実家が弁当屋だそうで、他人事とは思えないと言ってくれたのも大きい。
 そして私は今、あのクロスタイルの本社にいる。

(す、すごい……)

 一等地にある三十階建てのビルは、受付まで私の思い描いていたものと違いすぎた。
 公園に迷い込んだのかと思うような緑の数々。
 大きな窓から差し込む光は柔らかで優しい。
 それでいて最先端の技術がちらほら目に付いた。
 携帯端末を持ち歩いた受付係は複数人おり、今、私の目の前にもいた。

「十五時から面接の袖川様ですね。少々お待ちください」
「はい」

 案内された待合室はちょっとしたカフェのようでもあった。
 柔らかい椅子が逆に落ち着かず、いけないと思いながらあちこち見回してしまう。

(私が来てからずっと来客が途切れてない。いつもこんな感じなの……?)

 同じように待合室へ通されたスーツ姿の人々を見て、そんな風に考える。
 そうして待っていると、エレベーターで最上階まで行くよう言われた。

(最上階って……まさかいきなり社長面接だったりする?)

 動揺を隠しつつエレベーターに乗り、三十のボタンに触れる。
 一緒に乗り込んだ社員たちの視線を感じたけれど、今はそれどころではなかった。

(さすがに社長と話すなんてことは……。でも、どうなんだろう。社長の秘書を決める面接なんだし……)

 いくら部長という伝手があっても、そこまで優遇されるとは考えづらい。
 とはいえ、考えても答えが出ることではなかった。
 頭を切り替え、面接で話すべき内容を脳内で復唱する。
 二十五階を超えると、エレベーターの中は私一人になった。
 本当に最上階まで行くのだという緊張感に手汗を滲ませながら、気持ちを落ち着かせる。
 永遠に続くかと思われた時間も終わり、エレベーターの扉が開いた。
< 21 / 169 >

この作品をシェア

pagetop