夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
・デート中も溺愛するんですか?
 日曜日がやって来た。
 悩みながら選んだ服は、一応とっておきのもの。
 ただし、春臣さんからのコメントは特になかった。

(残念だけど……まあ、いいか。予想はしてたし)

 店の並ぶ通りを歩きながら、隣を歩く春臣さんを盗み見る。
 会社ではスーツを、家ではシャツ姿を、寝る時に寝間着を見るぐらいで、よく考えればこんな私服を見るのは初めてだった。
 ジャケットなのもあってかっちりした印象は消えていないけれど、スーツ姿よりも背の高さが目立って見える。
 そのせいで歩幅が合わず、私は小走りに追いかける羽目になった。
 時々、周囲の視線がまとわりつく。
 私にではなく、春臣さんに。

(モデルみたいだもんなぁ……)

 よく芸能人の目撃情報がある街ということもあって、もしかしたらそうではないかという好奇の気配を感じる。

(ある意味芸能人ではあるのかもしれないけど)

 春臣さんを目で追いかける人たちは、その後ろを追いかける『妻』の姿があることになど気付いていないだろう。

「春臣さん」

 さすがに疲れて呼び止めると、春臣さんは不思議そうに振り返った。

「どうした?」
「あの、もう少しゆっくり歩いてくれると嬉しいです」
「……?」
「追いつけなくなるので……」

 いつの間にかすっかり呼吸が荒くなってしまっている。
 夏の盛りでもないのに、汗まで滲んできた。

「悪い」
「いえ、大丈夫です」
「……大丈夫じゃないだろう」

 春臣さんが近付いてくる。
 そして、肩で息をしていた私の手を取った。

「休むか?」

 首を横に振って応える。

「……気が付かなかった。すまない」
「本当に大丈夫なんです。私こそ……すみません」
「いや、今日は一人じゃないことをもっと意識しておくべきだったな」

 そっと春臣さんが背中をさすってくれる。
 そういう所は優しいと思った。
< 61 / 169 >

この作品をシェア

pagetop