夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
・これからも側にいていいですか?
 それからしばらく少し慌ただしかった。
 両親にはまた春臣さんのもとへ戻ることを告げ、一人暮らししていた頃の家から今度こそすべての荷物を運びこんだ。

 その間に春臣さんは会社のことで忙しく飛び回っていた。
 先方の会社は産業スパイを送り込んでいたと認め、後はその事後処理を済ませれば晴れて解決らしい。
 その時知ったけれど、私は退職したことになっていなかった。実家の都合で休職中ということらしく、戻ろうと思えばいつでも戻れると言う。

 ちょっと自分に都合がよすぎて戸惑ったものの、最終的にはまた秘書をやらせてもらうことにした。家でおとなしく夫を待つ生活が向いているとは思えなかったし、オーバーワーク気味な春臣さんの手伝いを私の手でしたいという思いもあったからだ。
 進さんからも謝罪を受けると同時に復帰の後押しをされた。私が戻ってきてくれないと春臣さんが怖いと、後でこっそり言われたのは晴臣さん本人に言わないでおく。

 ひとまずひと月だけ休みをもらい、その間は忙しい春臣さんを家で出迎える日々を送った。
 ようやく落ち着き始めた頃、春臣さんのもとに一件の連絡が入る。

「祖父さんから会いに来いと言われてる。……会社の件は別に伝えたんだが」
「まだ聞きたいことがあるのかもしれませんね」
「これといって思いつかないな。まあ、考えていても仕方がないか」

 その連絡をもらって数日後、私たちはまたあの豪邸に来ていた。
 いつ見てもとんでもないお屋敷である。
 あの時より緊張せずにいられているのは、春臣さんとの関係が偽物ではなく、本物になったからだろうか。
 客室へ案内され、しばらく待っているよう言われる。
 そうして時治さんがやってきたはいいけれど、なぜか進さんも伴っていた。

「どうして海理までいるんだ?」
「春臣、契約結婚だってのは本当か?」

 時治さんは春臣さんの質問に答えることなく、厳しい口調で言う。

「確かに援助の条件として結婚を提案したが、本当にそこまでするとは思わなかった。……お前は奈子さんを何だと思ってやがる」

 少し、意外に思う。
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