夜を迎え撃て
未明
 

 学校で友人と悪ふざけをしていた。ら、誤って階段から転げ落ちた。

 気がついたら病院にいて、俺は救急車で運ばれてどうやら頭を打ったらしかった。先生曰く、左足の骨の大切な連結部分みたいのに傷を負ってしまったとかで、完璧に治るのに三ヶ月はかかるらしい。頭に異常がないかを調べるために検査もする。

 だから俺は、入院することになった。

 宿題もやらなくて済むし、学校に行かなくていいのは超ラッキー。

 けど、病室から見えるのがずっと同じ景色っていうのには、正直ちょっと飽きてきた。










「あ、くそまた逆メテオかけてきやがったこいつ」

 ぶっぱ、吹っ飛びからのバースト技。

 剣を持ったキャラクターが場外に落下するのを待たないで、俺はゲーム機をベッドに放り投げた。連戦連敗。あーくそ腹立つ、と舌打ちをすると大部屋の入り口からあーっ! っと声がする。


「おにいちゃんまたゲームばっかやってる! いっけないんだー! 目がわるくなるからやりすぎ注意、っておかあさんに言われてたのに」

「るっせー泣き虫マドカ。暇なんだからしょーがねーだろ」

「まどか泣き虫じゃないもん!」

「えー?」


 初めての骨折、初めての入院。

 検査も含めて一週間も学校が休めるって喜んで損した。実際はベッドでずーっと寝てなきゃいけないし、病院食だって味が薄めでお菓子も好き放題食べられない。これなら下手くそでも、5歳の妹が母さんに代わって作るしょっぱいおにぎりの方が、まだマシな気がする。


「あー早く退院できねーかなー」

「へんなの。きのうはヤッター学校休めるー! ってよろこんでたくせに」

「人間無い物ねだりなんだよ」

「ちょっとよくわかんない。あ、これおにいちゃんきがえ。おかあさんに頼まれたから持ってきたよ」

「お、サンキュ」


 紙袋に入ったお気に入りのTシャツを見て、ちょっとだけテンションが上がる。入院用の服はちょっと堅苦しいんだよな、と早速上を脱ぎ始めたら、りんごの詰まったフルーツバスケットを置いた妹が、遠慮がちに顎を引いた。


「…ねえおにいちゃん」

「んー」

「おとうさんとおかあさんが【りこん】したら、私たち、名前変わっちゃうってほんと?」


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