いきなり婚─目覚めたら人の妻?!─
情けは人のためならず
私はバッグを手に玄関を出て鍵を掛け、部屋をあとにした。

部屋の鍵はどうしようかと少し悩んだけれど、鍵を剥き出しのまま集合ポストに入れておくのは不用心なので、封筒に入れてポストの中に置いておくことにした。

一緒に暮らし始めることにはあんなに躊躇したのに、終わらせるのはずいぶん呆気ないものだ。

マンションを出てぼんやり歩いていると、足が勝手に駅へ向かっていた。

このまま電車を乗り継いで実家に帰ろうか。

それとも新しい住まいと仕事を探すべきか。

駅前広場のベンチに座って、まずはどこへ行けばいいのかと考えていると、お腹が大きな音をたてた。

そう言えば昼御飯を食べるのを忘れていた。

こんなときでもしっかりお腹が空くのだから、人間ってたくましいと思う。

適当な店に入って食事をしながら今後のことを考えようかと思ったけれど、今は無駄なお金など1円も使いたくないから、食事はできる限り安上がりに済ませなくては。

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