副社長の歪んだ求愛 〜契約婚約者の役、返上させてください〜
あれは……確か17歳の頃だっただろうか。
その年、初めて参加するという、5歳の少女がいた。その子が佐山美鈴だった。

彼女はトップバッターで、先生と連弾を披露していた。
黄色のドレスを着てにこにこする姿は、とても微笑ましく、会場を和ませていた。

弾き終えてホッとしたのか、発表後、ロビーで母親にあまえながら、お菓子を食べていた。
本番を控えて、失敗するわけにはいかないと緊張をしていた僕は、少女の幸せそうにお菓子を食べる姿を見て、ふっと肩の力が抜けた。


翌年の発表会にも、彼女は出ていた。
2年目は、1人で演奏していた。
ほんの一箇所間違えたことが、相当悔しかったようで、演奏後ロビーで母親に抱きついて、涙を流していた。
少女が素直に感情を表す姿は……なんだかとても羨ましく感じた。

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