番外編 冷徹皇太子の愛され妃
そんなわけで、宮廷主催の夜会には、国中の貴族が出席し、皆こぞって我先にと皇太子夫妻-―目的はフィラーナだが――に拝謁を願い出た。

結果は前述の通り。

フィラーナが皇太子妃に相応しいとわかるや否や、それまで息巻いていた令嬢たちはすっかり意気消沈した。おまけに、そばに立つ皇太子ウォルフレッドがフィラーナに向ける眼差しのなんと優しいこと。決して見ることのなかった皇太子の顔に、彼女たちは持っていた牙を完全に削がれ、敗北を悟った。

だが、フィラーナは同じ年頃の娘たちと言葉を交わすことが楽しかったようである。彼女たちの思惑など知るよしもなく、後日、皇太子妃主催のお茶会の招待状が各家庭に届いた。

断りを入れる者をいたが、大半は出席し、お茶会が開かれた。そこで彼女たちはフィラーナの違った一面を見ることになる。

「今日は堅苦しいことはなしに、楽しみましょう。わたくし、皆さんと仲良くなりたいの」

フィラーナの言葉通り、茶会は和気あいあいと進んだ。フィラーナはよく笑い、話も楽しい。そこに『我こそは皇太子に選ばれた者なり』というような見下した感情は一切なく、心の底から皆と楽しみたいという気持ちが伝わってくる。地位の壁を乗り越えて接してくるフィラーナに、令嬢たちも最初こそ戸惑ったものの、次第に緊張は解けて、気づけば皆、自分たちを同等に扱ってくれるフィラーナの虜になっていた。

フィラーナからすれば、『公私は切り替えて、細かいことは気にしない』という心情なのだろう。だが、貴族社会の縦の序列に縛られてきた貴族令嬢たちにとって、それは意外だったらしく、『お妃様は全然偉そうになさらない。とても立派なお方』という新鮮な好印象をもたらしたようだ。
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