伝わらなかったあの日の想い
同居
 私、紅林 紗優美(くればやし さゆみ)は、26歳の秋、礼服に身を包み、マイクの前に立たされた。

「強い父でした。
優しい父でした。
明るい母でした。
大らかな母でした。
2人は私の理想でした。
そんな2人との突然の別れを未だ受け止め
きれない自分がいます。
いつも安全運転だった父が、まさか
交通事故に巻き込まれるとは思っても
みませんでした。
仲の良かった2人は、最後まで2人一緒
でした。
今頃、2人仲良く手を取り合って黄泉路を
歩んでいるのかもしれません。
まだまだ親孝行はこれから…と思っていた
のに、もうそれも叶いません。
どうか未熟な私どもではありますが、
今後とも故人と変わらぬご指導ご鞭撻の
ほど、よろしくお願い申し上げます。」

 3日前、私の両親は交通事故で他界した。
交差点でブレーキとアクセルを踏み間違えた高齢ドライバーに助手席側から衝突され、反対車線に押し出された所に対向車の大型トラックが衝突した。
2人ともほぼ即死だったそうだ。

 身元確認の為訪れた遺体安置所で、私は息を飲んだ。
最後に見る両親の姿が、こんな無残な姿だなんて……
加害者に悪意がなかったことは分かってる。
分かってるんだけど、それでもやり場のない怒りと悲しみは、どうしても加害者に向けたくなる。
83歳で拘置所に入れられて可哀想だと思う反面、過失で済まさないでほしい、厳罰に処してほしいと願う私がいるのも事実だ。

 3日前、三人家族だった私は、今、独りぼっちだ。
昨日までは、母の妹に当たる叔母さんが心配して泊まりに来てくれていた。
しかし、今日、葬儀を終え、高校生の息子がいる叔母さんは自宅に戻った。
私は、斎場から父の兄に当たる伯父さんに家まで送ってもらう。

「送ってくれてありがとうございました。
葬儀のことも、何から何まで手配して
くださって、助かりました。」

私は車を降りて、お礼を言う。

「困った時は、いつでも電話して来いよ。
紗優美ちゃんは、もう俺の娘も同然
なんだからな。」
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