伝わらなかったあの日の想い
月明かりの下で
 あれ?
今、何時?

いつの間にか寝ていた私は、手探りで携帯を探す。

11時か。
お腹、空いたな。

携帯で時刻を確認した私は、起き上がって階段を下りる。

こんな時でも、お腹は空くんだな。

家はそのままで、今にも母が呼ぶ声が聞こえてきそうなのに。

そんな事を思いながら階段を下りていると、カチャカチャ、シャーと食器を洗う音が聞こえた。

っ!!
お母さん!?

私は、一縷の望みと共に、階段を駆け下りる。

「お母さん!!」

キッチンに飛び込んだ私の目に映ったのは、フライパンを洗う賢吾の姿だった。

お母さんじゃない……
分かってたのに…
分かってたけど…

手を吹いた賢吾が、私に歩み寄る。

「ごめん。
期待させたな。」

っ!!

賢吾にそっと抱き寄せられ、背中をトントンと優しくあやすように叩かれると、止めどなく涙が溢れた。

子供のように泣きじゃくる私を、賢吾はずっと抱きしめていてくれる。
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