残念な上司に愛の恐竜料理を!

6皿目


「なに! あのデカくて長い白ワニは! 恐竜じゃないの?」

 セラミックが大きな目をまん丸くする。

「しっ! あそこを見て……スイカが水を飲んでるわよ」

 真美さんが指差す水際の方向には、更に大きな四つ脚の生物が立ち上がって様子を伺っていた。
 黄色がかったグリーンのボディに黒い縦縞模様……テノントサウルスは正にスイカだ。

「噂通り尻尾が長いんですね、綺麗な恐竜……」

 松上は皆に頭を引っ込めるよう合図すると、二脚伏せ撃ちでテノントサウルスを狙った。極めて無防備な状態になるので、周囲の警戒は他の3人の役割だ。彼愛用のライフル銃はバーミントハンティングモデルで、恐竜を倒すには威力が弱すぎて到底無理のはずだが、急所を一撃で狙うことによって弱い弾をカバーしている。

「静かに。ヘッドショットして苦しませず倒すのが、せめてもの心遣い」

 沈黙する隊に運悪く無線が入った。

「……他のチームが肉食恐竜らしき姿を目撃したらしい。βチーム警戒を怠るな」

「…………」

 スコープを覗く男の左耳イヤホンに嫌な情報が届く頃、一際大きな銃声が水面を伝播すると同時に吸い込まれるように響き渡った。
 テノントサウルスは、ビックリしたように水面から頭を上げて警戒音を出すと、一目散に森の中に消え失せた。後には泥の上に特徴的な足跡だけが残されたのだ。

「何をするんだ、アレクセイ! 恐竜が逃げちまったじゃないか!」

 松上が怒るのも無理はない。いつの間にかタバコを咥えたアレクセイが、空に向かって一発ショットガンを発砲したからだ。

「何考えてんだ! 追いかけて捕まえてこい!」

 立ち上がって激怒する松上を全く意に介さず、アレクセイは彼の額にショットガンの銃口を当てると、タバコの煙を犬歯辺りから吐き出して言った。

「武器を捨てろ松上サン。ダヴァーイ! 吉田サンとセラミックもデス!」

 あの優しかったアレクセイの顔が歪み、今は映画に出てくる海賊のようだ。セラミックは、あまりのショックで泣き出しそうになったが、5秒で冷静になってショットガンを地面に降ろした。
 真美さんも、しばらくどうするか考えた後、言われた通りカスタム化された89式小銃を捨てる。

「ちょっと、アレクセイ! これは一体どういう事? 私達を裏切る気なの? 雇って貰った恩を仇で返すつもり?」

「そうだ、こんなマネをしたら信用を失って、二度と中生代へダイブできなくなるぞ!」

 2人の声にも耳を貸さずアレクセイは3人分の武器を背負い、無線機も全て奪い取った。

「私はワイルド・シェパードの一員デス。悪く思わないで下サイ」

 ワイルド・シェパードといえば過激な環境保護団体で、彼らによると恐竜絶滅は人類の干渉と乱獲が原因らしい。生物進化の根幹を揺るがす、許されざる行為として恐竜ハントに大反対をしている連中だ。世界中の金持ちから寄付金を募り“ジュラアナ長野”にテロまがいの破壊工作を仕掛けたあげく、国際指名手配となっている者も多い。
 だが恐竜ハンターの資格を持つアレクセイは本当にノーマークだったのだ。
 
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