天満つる明けの明星を君に②
問題は、誰と誰が不貞行為を働いたのか――柚葉はその点を一切明かしていなかった。

朔たちは兄弟の不貞を疑っていない。

妻を愛しているのは間違いないし、他の女に見向きしたことはない。

一体柚葉は何を勘違いしているのかと思っていたが、それを口にするほどの度胸はなかった。


「名乗り出るつもりもないっていうことですね?…だったら芙蓉ちゃん…」


「そうね、連れて来るわ」


…連れて来る?

またもやおかしなことになっている、とつい顔に出てしまった面々は、柚葉に睨まれてびくびく。

立ち上がった芙蓉が外で待機していた雪男に声をかけ、雪男が庭で遊んでいた暁と雛乃を呼び寄せた。

その面子となると…雛乃か。

雛菊の生まれ変わりである雛乃をどうこうなど一切思ったことがない朔たちは、固唾を呑んで歩み寄ってきた雛乃を見つめた。


「え…雛ちゃ…雛乃さんと僕たちの誰かが?それは……誰でしょう?」


天満がちらりと朔と輝夜を怒気を孕んだ目で撫でたが、ふたりはもげそうな勢いで首を振った。

そして部屋に入って来た雛乃は、終始おどおど。


「あの…なん…でしょうか?」


「雛乃さん、こうなったからにはごめんなさいね」


「え?」


にっこり笑って見せた芙蓉の微笑になってぽうっとなって隙を見せた瞬間――巻いていた首巻きを奪い取った。


「きゃ…っ!な、何を…!」


――天満たちの視線が注がれた。

雛乃の首についたふたつの穴…噛み跡に、三人は硬直して瞬きも忘れて食い入るように見つめていた。


「…端的に言う。俺じゃない」


「端的に言いますけど、私でもありません」


「僕じゃないですよ。なんなんですか、雛乃さん…それは誰が?」


「あの…あの…」


言い逃れできない――

観念した雛乃は、重たい口を開いた。
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