食べたくない私 と 食べさせたい彼【優秀作品】
おでん
 11月に入り、冷え込む日が増えてきた。

そんなある日、ロケ帰り、石井さんが言う。

「おでん、食いたいな」

「そうですか?」

そんな季節なんだ…という感覚はあっても、それを食べたいという感覚は私にはない。

「堀川、今夜、付き合え」

石井さんの理不尽な命令が下る。

「は? 嫌ですよ」

石井さんは不思議な人で、横暴な命令を下すくせに、私が部下としてありえない言動をしても、おもしろそうに笑ってる。

「お前、俺に一人でおでんを食えって
言うのか!?
うまいの作ってやるから、お前も食え」

「えっ…
それって、石井さんちで?」

「当たり前だろ。
他にどこで作るんだよ」

「いや、食べに行くのかと… 」

私が言うと、石井さんは呆れたように私を見る。

「毎日、昼に外食してるんだ。
夜くらいは自炊しろよ」

「いえ、私、夜は食べないので… 」

「は!?」

「夜は帰って寝るだけなので、食べる必要は
ないかと… 」

私の言葉を聞いて、石井さんの顔色が変わった。

「お前、今日から毎日、うちに寄って帰れ」

「はぁ? 嫌ですよ」

「嫌じゃない。これは上司命令だ」

「そんなの横暴ですよ。
大体、夜、彼氏でもない男の家に行っちゃ
いけないって、高校生の時、保健体育で
習いました」

「じゃあ、男だと思うな。
とにかく、今日はおでんだから、先に
帰るなよ」

これ以上、反論したところで、この人は折れないだろう。

諦めた私は、

「はーい」

と頷いた。

まぁ、実際、7歳も年が離れている上に、色気ゼロの私じゃ、石井さんも間違った気は起こさないでしょ。
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