目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。

迷宮

目を開けると、そこには白い天井があった。

「ああ!良かった!!」

突然掛かった声に、私は目をさまよわせる。
見ると左側には白衣を着た男性と、やはり白い服の女性。
そして右側には、驚くほど見た目の整った男がいた。
スッと鼻筋が通っていて、唇は程よく厚みがあり好感が持てる。
切れ長の奥二重の目は涼やかで、そのせいか少し冷酷にも見えた。
だけどその反面、髪はボサボサで無精髭も見える。
着ているスーツも何日も同じものを着ているかのように、たくさんのシワが出来ていた。
更には目の下にクマが出来ていて、顔色も悪い。
せっかくのイケメンが台無しね。
と、状況がわからないくせに心の中で思った。

「ここがどこかわかりますか?自分の名前が言えますか?」

白衣の男性が尋ねた。
白い部屋、白衣。
もう彼が医者で、後ろの女性が看護師だということはぼんやりとした頭でもハッキリとわかる。
だけど、私は医者の質問に答えることが出来なかった。

「ここは……あの……私は……」

そう……何もわからなかった。
今いる場所がどこかも、そして自分の名前さえも。
言い淀む私に、医者が言った。

「無理しなくていいですよ。頭を打っていますから、記憶があやふやなのかもしれない。後でもう一度検査しましょう」

「はい……」

消え入りそうな声で答えると、医者は右の男に声をかけた。

「また後で来ますので」

「はい。ありがとうございます」
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