さようなら
★自殺

ハアハアハハアハ…

★自殺
ハアハアハア…
誰かの荒い息づかいが聞こえる。
(…何で? 誰がいるの?)
あたしは意識が朦朧として階段に座り込んでいた。
師『い、いた…ハア…やっと見つけた…
まゆみさん、どうしたの?」
師長はあたしの足下を見た。
師『薬飲んだのね⁉一体何を飲んだの⁉
ミユキ『❌■🔺…」
師『え?何⁉」
まゆみ『…は…ルシ…」
師『ハルシオン⁉何錠飲んだの⁉」
まゆみ『…3…0…」
師『そんなに…」
あたしはどんどん意識が遠退いて行った。
師長はPHSをとりだした。
師『F6N屋上。ハルシオン大量摂取。すぐにストレッチャー。中原先生と須賀先生に至急連絡して!
まゆみさん、しっかりして!寝ないで❗」
師長はあたしの肩をゆらしたり頬っぺたを叩いたりしていたらしいが、あたしはもう意識がなかった。

★処置室
担当ナースが心電図をとりつけラインをとっている。
中原『飲んでからどの位経つ?」
師長『二時間近くは経ってるかと」
中原『二時間…無駄かも知れないけど胃洗浄してみよう。池田さん、口から管いれますからね。ちょっと苦しいかも知れないけど我慢してくださいね」

(いやいや、先生。そんな事しないでください。ほっといてください。)
と言っているつもりだが声がでない。

中原『出ないか…全部吸収したか。まずいな…

バン!!
突然処置室のドアが思いきり開いた。
須賀『どんな状態⁉」
須賀先生が恐い顔をして息をきらしながら入ってきた。
中原『かなりまずいな。とりあえず胃洗浄はしたがでてこない。後は任せたよ」
中原先生は出て行った。

須賀『ふざけんなよ…何してんだよ!」
須賀先生が怒っている。
(先生、ごめんね。)

突然心電図の音がなった。
『ピーー」
須賀『除細動!」
ナース『はい」
須賀『離れて!」
バン!! ピーー
須賀『上げて!」
ナース『はい!」
須賀『離れて!」
バン!! ピーー
須賀『何でだよ…約束したじゃないか!待ってるって… 待ってるって言ったじゃないか!」
先生は涙を流し叫んでいた。

あたしは気がついた。じぶんが身体に入って無いことに。
頭上から全てを見ているのだ。
つまり、死んでいるのだ。
(先生…約束覚えてくれてたんだね。嬉しい…。でも、もう無理なの。先生とは一緒になれないの。だからこのまま死なせて下さい。お願いだから…)

須賀『エピネフィン投与!」
ナース『はい! 投与しました」
須賀『上げて!離れて!」
バン!!

最後の除細動。
あたしの身体がドスンとなり、あたしは目を開けた。

先生はあたしを睨み付け、だけど安堵した顔で泣きながら処置室から出て行ってしまった。
 
★入院
あたしは自宅でも学校でも、ストレスからくる極度の過剰換気症候群で倒れるひが多かった。
ある日、近くの病院に検査入院がきまったが、喘息が発覚したこと以外、やはりストレスが原因と言うことで、大学病院の精神科に入院を前提に紹介され、初診にいたった。

担当は教授だが、教授は忙しい。主に診てくれるのは副担当。つまり、医者なりたてほやほやだ。

せいたかのっぽにボサボサ頭のガリガリのメガネやろう。おまけにぬぼーっとしている。

こいつがあたしの担当?マジ冴えない男。ヤブ医者みたい。
絶対にあたしの悩みなんかわからないし、どれだけストレス抱えてるかもわかるはずかない!

これが須賀先生に対する第一印象。

入院して3日め。
その日は見事な晴天であたしはベッドから空を眺めていた。

失礼しまーす。
カーテン開けますよ。
のっそりと顔を出したのは須賀先生だった。

須賀『こんにちは」
まゆみ『こんにちは」
須賀『…」
まゆみ(なんだよ。話す事ないなら来んなよ)
あたしは空を眺め出す。
須賀『今日は天気がいいですね。」
まゆみ『そうですね。」
須賀『入院はなれましたか?」
まゆみ『まだ3日目ですよ。慣れないでしょ。家にいるよりはマシですけど」
須賀『家でなにかあったんですか?
まゆみ『…別に」
諏『…じゃあ、また後できますね。」
(来なくていいよ)
あたしは無言でまた空を眺めた。
須賀先生も暫く空を眺め出て行った。

医者なりたてとはそんなに暇なのか、須賀先生は3日に一度はくるようになっていた。

話しは相変わらず『どう?」
ただ、変わったのはお互い敬語を使わなくなっていた事だ。

2ヶ月もたつと、かなり病院生活も飽きてきて、あの須賀先生がくるのが楽しみの一つになってきていた。

まゆみ『ねぇ、先生ってさ、車何乗ってんの? あ!やっぱりいいや。きいてもわかんないから。」
須賀『後で雑誌持ってこようか?」
まゆみ『患者に簡単に教えていいもんなの?後であたしにストーカーされるかもよ?
須賀『君だったらいいかもね!」
あたしは一瞬ドキっとした。
須賀『冗談!」
まゆみ『だろうね」
その時はまだ、ドキっ!の意味がわかっていなかった。

そのうち、先生が病室にくるんじゃなくて、カンファレンス室に呼び出される事も多くなってきた。

まゆみ『今日はなんで病室じゃないの?」
須賀『病室じゃ話せない事もあるんじゃないかな? 入院して3ヶ月経ってだいぶ慣れてきたみたいだし、ちょっと治療を進めようと思って。まだ、何も話したくない?」
まゆみ『…まだ…。ただ、母親も兄も嫌い。」
須賀『どうして?」
まゆみ『…」
あたしは、うつむいて黙ってしまった。涙がでそうになった。
まゆみ『後で。もう少し気持ちの整理ができたら話すから待ってくれる?」
須賀『うん。わかった。じゃあ今日の話しはおしまいね」
まゆみ『サンキュー!」
あたしは笑顔で言っが
病室に戻り布団にもぐりこんで声を圧し殺して泣きじゃくった。
話せたらどうにかなるのか?
話したら楽になるのか…
?

★単独行動
月日も流れ、たまに発作は起きるものの、状態もだいぶ安定して単独行動が許されていた。

あたしは売店に行こうとしたら須賀先生が入ってきた。
須賀『あれ?どこか行くの?」
まゆみ『うん。売店。本買いに行くつもりだったんだけど、後でもいいよ」
須賀『あぁ。様子見にきただけたから大丈夫だよ」
まゆみ『先生も行く?」
須賀『…うん。行こうかな。」
まゆみ『え⁉先生一緒に行っていいの?」
須賀『シィ!ほんとはダメ。後からすぐに行くから先に行ってて。絶対に一緒に行くって言ったらダメだよ!」
と須賀先生は小声で言った、
まゆみ『うん!」
満面の笑みを浮かべてるあたし。
もう、ウキウキワクワクが止まらなかった。

何故か少しでも先生の側にいたくて、本は決まってたのに、どの本がいいか迷ってる振りしながら、側にいる先生を横目でチラチラ。
須賀『決まった?」
まゆみ『これにしようかな…」
須賀『どれ?…なんか難しそうだね。」
まゆみ『医学書に比べたら難しくないでしょ。この人の本良く読むと面白いんだよ。読み終わったら貸してあげるね」
また何故かこの時、共通の物がほしいと思った。

★ペン回し
須賀先生はペン回しが上手だ。
カンファレンスにいても、病室にいても、ナースセンターにいても、常に右手の指を器用に使ってくるくるとペンを回している。

須賀『池田さんカンファレンス室まで来てください」
病室にアナウンス?が入った。

まゆみ『失礼しまーす。」
須賀先生はまた、器用にペン回しをしながら待っていた。
ミユキ『またやってる笑」
須賀『何が?」
まゆみ『ペン回し。」
須賀『あ!ゴメン」
須賀先生はペン回しをやめようとした。 
まゆみ『やってていいよ。もう癖になってるんでしょ?凄い上手だよね。もっとやって見せて!」
須賀『いや、やめとくよ」
まゆみ『なんで?あたし、先生のペン回し好きだよ!左手でできる?」
須賀『どうだろう?」
といいながら、左手でペン回しを始める先生。
右手程上手ではないが、器用に回している。
あたしは、先生の手に見とれていた。
白い大きな手のひらに、細くて長い指。
とても綺麗な手をしていた。
須賀『どうしたの?」
まゆみ『え⁉ あぁ何でもない。ところで今日の用事は?」

★好きな人
須賀『うん。今日は何話そうか?そうだなぁ…。最近、友達もたくさんできたみたいだね。好きな人でもできた?」
まゆみ『はぁ?好きな人?…あぁ!もしかして金石さんの事?」
須賀『違うの?お兄ちゃんって呼んでるみたいだけど」
まゆみ『年上だからお兄ちゃんって呼んでるだけだし、勉強教えてもらってるだけ。先生もしかして気になってるの?焼きもち?」
先生の顔が急に耳まで赤面した。まるで茹でダコだ。
まゆみ『先生なに顔赤くしてんの?タコみたいだよ!」
あたしは、ゲラゲラとお腹を抱えながら爆笑した。
須賀『今日はもう話しおしまい!」
先生はさっさとカンファレンス室を出て行ってしまった。

ゲラゲラと笑っていたあたしも、内心は心臓がバクバクしていた。
『好きな人でもできた?」の言葉に反応してしまったのだ。
すぐにカンファレンス室を出て先生の姿を追ったがもう見当たらなかった。
見当たらなくて良かったのかもしれない。
『あたしは先生が好き!大好き!」と言ってしまう所であっただろう。
所詮医者と患者。しかもあたしは精神患者。恋愛なんて成り立つわけもない。

そもそも、あたしは先生を好きなのか? 信頼と恋愛を勘違いしているだけではないのだろうか?
そういう自問自答がずっと続いたが、その頃には、毎日何度でも先生に逢いたい気持ちでいっぱいになっていた。何も話さなくていい。顔だけでもみられれば…という想いでいたのは確かだった。

★出張★
須賀『池田さんおはよう」
まゆみ『おはよー! あれ?何スーツなんかきてるの?髪の毛まで整えて。今から見合いでも?」
あたしはどきどきしながら聞いてみた。
須賀『見合いはもう何度でもしてるよ。相手の気持ちがわからなくて困ってるけどね。それより、今から出張なんだ。しばらくこれなくなるから」
まゆみ『どれくらい?」
須賀『1週間。他の先生に頼んでおいたから大丈夫だよね?」
あたしはひねくれた。
まゆみ『ほんとは結婚してハネムーンじゃないの?」
須賀『本当に出張。結婚もしてないし、さっきも言ったけど、相手の気持ちさえわからないの! あ!ゴメン!もう行くから!」
先生は慌てて出て行った。

あたしはショック。出張で1週間も逢えない上に、先生には好きな人がいる。
大、大、大ショック。
(やっぱりあたしは先生がすきなのかも…)

バタバタバタバタ❗
須賀『池田さん!」
去ったはずの先生が息をきらして戻ってきた。
須賀『ハァハァ… 池田さんの好きな事やしたい事って何?」
まゆみ『突然きかれても… 読書や絵やピアノ…かな?」
須賀『わかった!じゃあ!」
嵐のように去った先生。
一体なんだったんだ⁉

★寒空の絵画
須賀『池田さんただいま。」
うとうとしていたあたしに、カーテン越しに須賀先生の声。
まゆみ『おかえりなさい!」
あまりのうれしさにベッドから飛び降り、勢い良くカーテンを開け先生に抱きついてしまった!
ハッとしてベッドに戻るあたし。
先生はまた茹でダコになっていた。
あたしも顔が熱くなっていた。
まゆみ『ゴメン…」
須賀『いゃ、大丈夫。ちょっと驚いたけど。ところで今時間ある?」
まゆみ『あるよ。暇で寝てたんだもん。
…ん? 何で色鉛筆もってるの?」
須賀『うん。絵とか好きって言ってたから、一緒に絵でも書きに行こうと思って。行く?」
須賀『もっちろんでございまするよ!あ!でも、患者と先生は行動一緒にしちゃだめなんじゃん!」
須賀『大丈夫。今日は治療の一貫だから。外寒いから、暖かくしてね。ナースセンターで待ってるから」
まゆみ『はーい!(治療か…ま、いっかぁ)」

あたしと先生は病棟を出て外へと向かいはじめた。が、何やらカフェの方が物凄く賑わっている。
まゆみ『ねぇ、何かやってるのかなぁ?

須賀『うん。なんだろう?ちょっと行ってみる?」
まゆみ『行きたい!」
先生とあたしはカフェに向かって歩き出した。
『綺麗!マジ綺麗だったよね!肌も透き通ってて。さすが北野晴子だね!」
まゆみ『聞いた?」
須賀『うん。」
あたしは先生の手をとり足早にカフェへと向かった。
先生の手は大きく温かかった。

カフェの周りは人。人。人。
チビのあたしには北野晴子が全然見えない。なんとしても見えない。
あたしは、先生とはぐれないように、まだ先生と手を繋いでいた。

先生を見ると、先生は食い入るように北野晴子を見ている。
まゆみ『先生身長ナン㎝?」
須賀『…」
まゆみ『先生、北野晴子見える?」
須賀『…」
ムカツク!
あたしは、繋いでいた手を離し、先生から離れ後ろにまわり、助走をつけて走り出して先生の背中に飛び乗った。
須賀『うわっ!何すんだよ!」
珍しく先生が怒ったが、
まゆみ『先生が悪い。話しかけても無反応だし、先生ばかり北野晴子見て!あたしはチビだからこうしないと見えないの!だから、おんぶ!」
須賀『ごめん。わかったよ」
先生は溜め息をつきながらそう言った。

あたしはちびのわりに肉付きがよかった。豊満な胸は先生の背中に当たり、顔は先生の直ぐ真横。
須賀『見える?」
先生があたしに顔を向けたとたん、唇がかすれあった。
まゆみ『う、うん。綺麗だね。」
須賀『うん」
確かに北野晴子は綺麗だった。
けど、今のあたしにはそんな事はどうでもいい事だった。

先生におんぶされ、唇がかすれあいすぐ真横に先生の顔がある。微かに頬がかすれ合う。
その状況に心臓が高鳴っていた。
先生の胸の当たりにあるあたしの腕にも先生の高鳴る鼓動が響いていた。

『ハイ カット!」
の声に我に返ったあたし。
まゆみ『先生ごめん。もういいよ。あたし重いし疲れたでしょ?」
須賀『大丈夫だけど、じゃあ目的果たしにいかないとね」
先生の顔がまたまた茹でダコになっていた。多分あたしもそうであっただろう。

外は曇りで風が吹いていた。
須賀『今日は大学の裏庭行こうか。ちょっと歩くけど気分転換にもなるだろうしね。」
まゆみ『うん。歩くの嫌いじゃないし。そういえばね、中学生の時、友達の家で尾瀬にキャンプ連れてってくれたんだ。
穏やかな坂道でなんて事ないと思ってたけど、長い道のりですんごくキツくて。でもね、登りきった時の水芭蕉は凄く見事だった。今度は好きな人と行きたいってずっと思ってたんだ。」
須賀『やっぱり好きな人いるの?」
まゆみ『須…う~ん…ナイショ!お兄ちゃんじゃないのは確かだけどね。」
須賀『気持ちは伝えたの?」
まゆみ『ううん。どうせ片想いで終わりだから」
須賀『やっぱりいるんじゃない。伝えてみないと片想いかどうかはわからないよ。」
まゆみ『先生は?相手の気持ちがわからないって言ってたけどちゃんと伝えたの?」
須賀『いゃ、まだ。」
まゆみ『人の事言えないじゃん。」
二人は暫く沈黙した。
まゆみ『ねぇ、先生?」
須賀『ん?」
まゆみ『ちょっと寒いね。さっき先生の手温かかった。手繋いでいい?」
理由なんてなんでもいい。あたしは先生と少しでもどこかで繋がっていたかった。
須賀『いいけど、もうすぐつくよ」
まゆみ『少しでもいいの。手が冷たいんだもん。」
そして、手を繋いだ。ただ、それだけで嬉しくてたまらなく、ただ、それだけで先生を愛おしく感じた。

須賀『ついたよ」
まゆみ『うわー!裏庭なのに、こんなに広いんだ。あれが大学?さずがに大きいね!」
須賀『うん。あ!言うの忘れてたけど、大学側には患者は立ち入り禁止だから、ここにきた事は誰にも言っちゃダメだよ!」
まゆみ『先生、他の患者さんにも同じようにしてるの?」
須賀『まさか!君だから出来ること」
まゆみ『ほんとだったら嬉しいけどね。」
あたしは笑った。

須賀『寒くない?」
ガタガタ震えてるあたしを見て先生がカーディガンを脱ぎあたしの肩にかけてきた。
まゆみ『ありがとう。先生は寒くないの?」
須賀『ちょっと寒いかな。時間も過ぎてるし、そろそろ戻ろうか」
まゆみ『ほんとは何時までだったの?」
須賀『3時半」
まゆみ『今何時?」
須賀『4時過ぎ」
まゆみ『ヤバいじゃん!いくら治療だって時間守らないと先生怒られちゃうよ!どう言い訳するの?」
須賀『う~ん。さすがにまずいけど…まぁ、何とかごまかすよ。僕がしたかった事だし」
先生の温もりと匂いのするカーディガンをはおり、また手を繋いで急いで病棟に戻る二人。

須賀『じゃあ、僕は医局によっていくから病棟一人で戻れるよね?場所は言っちゃダメだよ!時間は言われたら知らなかったでいいから」
まゆみ『わかったよ。規則破り。じゃーね!」
あたしは一人でエレベーターに乗り込んだ。
(あ!カーディガン…)
いかにも自分の服らしく、腕にかけて病室にもちこんだ。


                ~続く~
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