続・政略結婚は純愛のように
BARで
 隆之がBAR「あさやけ」に予定より少し遅れて着いた時、すでに待ち合わせの相手は来ていて、カウンターで飲んでいた。
 大手商社の社長である隆之が使う店ならば、会員制の高級な店ばかりなのだろうと言われるがそういう店は返って財界の知り合いに会いやすい。
 本当に気心がしれた相手とゆっくり飲みたい時に使うのが、この「あさやけ」である。
 一見店だとわからないつくりのこのBARに隆之が通っていることは多くの社員は知らないが、一人だけ、知っている人物がいる。
 その人物、蜂須賀陽二が振り返った。

「遅れてすまない。」

「…いや。」

交わす言葉が少なくて足りるのは、互いに気心がしれているから。
 3歳年上の陽二と隆之は兄弟のように育った幼馴染みだ。
 蜂須賀家は代々加賀家に仕える家柄で、父親の方の蜂須賀は隆之の父の代から秘書をしている。
 現代においてはそのような古い名残りはもはや関係がないし、陽二も自由に就職先を選べるにも関わらず結局は北部支社へ来た。
 そのことに隆之は何度も助けられた。
 今でこそ盤石な体制で会社を率いているという自負があるが、先代が倒れ、東京から呼び戻された当時は隆之にも敵は多かった。
 古参の社員からしてみれば甘やかされたお坊ちゃんに何ができるのだという気持ちだっただろうからそれも当然だとは思っていたが、そんな中にあって先に入社して地位を築いていた、陽二の存在はありがたかったのだ。
 今回の由梨の異動についても行き先が陽二のいる部署でなかったら、隆之は決断できなかったであろう。
 
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