さよなら、片想い
1.君が泣いていた
 食事に誘われて浮かれていった私をぶん殴ってやりたい。

「結婚することになったんだ」

 生ビールをあおってすぐ、宏臣(ひろおみ)が言った。

 皆がいるのに、乾杯が済んだ途端にこんなふうに切り出すなんて正気の沙汰とは思えない。

 結婚? 話題が話題だけに、今日の集まりの話題は終始『園田(そのだ)宏臣、二十四才にして結婚を決意する』に決まりじゃないの。



「嘘!」

「ていうかつきあってたのかよ! 相手は誰だ!」



 この場にいるのは高校からの仲良しグループだ。

 誰も知らないって、そんなのあり? 
 つきあってる人がいたとか、そんなのあり?



「おめでとう。なんか、知らないけど、よかったね」


 月並みな台詞はどうにか吐けた。

 適当な感じになってしまったのは許して欲しい。

 ずっと好きだった人に急に他の女と結婚すると言われたら、心の余裕なんかない。


「おお、サンキューな。やっぱ結衣(ゆい)はふざけているようでいて、こういうとき何気に一番まともだよなー。俺さ、お前ならそう言ってくれるって信じてた」

「そうすか。あざっす!」

「褒めたそばからそれかよ」


 うっかり隣の席を選んでいたので、首をがっちり固めるタイプのプロレス技を仕掛けられる。

 扱い雑すぎる。雑すぎて涙目になったことにする。



 宏臣がうれしさのあまりじっとしていられなくて時々こういう手段に出るヤツだってことを、私はよく知っている。

 高校のときからこうだった。あまりにも変わらなくて、変われなくて、やっぱり泣けてくる。

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