さよなら、片想い
5.やめるなら今のうちだと
 聞き覚えのあるエンジンの音が近づいてきた。岸さんのバイクだ。
 がら空きの駐輪スペースに滑り込むとエンジンの音が止んだ。
 私は小屋根のついた建物から駆け寄った。

「おはようございます」

 岸さんはフルフェイスのヘルメットを外した。

「おはよう。早いね」

 いつからいたの、と私がさっきまでいた場所に目をやってそんなことを言う。待ち伏せしていたのを気づかれていた。

「ついさっきです。意匠部の人たち、みんな来るの早いって聞いていたので早めに来てみようと思って。そんな日に限ってバスが遅れて、焦りました」

 お互いの吐く息が白い。
 家を出たとき、霧のように微かな雪が風に飛んでいた。
 駐車場もバイクの駐輪場もそれぞれ社屋から離れた場所にある。社員の姿は他には見あたらなかった。
 歩道を並んで歩く。

「このまえの私からの差し入れ、迷惑でした? 昨日、スマホにメッセージもらって、実は私って空気読めないヤツだったのかなーとあれこれ考ちゃって」

 迷惑ならもうしませんので! と必要以上にびしっと言うと、いや違うし、と岸さんは軽く否定から入った。

「うれしかったよ」

「ちっともうれしそうに聞こえないから聞いているんですよこっちは」

 社屋が見えてきた。
 ……駐輪場、案外近かった。もっと遠くに場所作ってほしかった。そしたらもっと話せたのに。
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