その青に溺れる
最悪の出会い
聳え立つビル群の中、小さく古びた4階建ての建物の出入り口の扉の前。
張り出された一枚の紙切れが風に翻り、その文字が見えた時に一瞬にして訪れる[絶望]の二文字。

『今月家賃の更新日なんだけど?』と直ぐに頭に浮かび、それは瞬く間に[不安]に変わる。

麗らかなビル風が吹く午前9時。
世間は入社式だ、新入社員だ、女子はどうだなどと騒ぎ出しそうな時間に、若干23歳、本日を持って私、眞田柚月はニートに昇格。


《それは素晴らしいじゃないかジョニー》

《あぁ!こんなに綺麗に落ちるとは思わないだろう?》


昨日、深夜に見た通販番組の外人が頭の中で喜劇を繰り広げるが、全く笑えない。
『どうせ落とすなら数年前の入社試験で落として欲しかったよ、ジョニー』などと冗談めかしても誰が笑ってくれるでもなく、現実は刻一刻と過ぎていく。

徐に携帯を手にし、心当たりを探って電話を掛けたが相手は出なかった。
取りあえずは帰宅して折り返しを待つしかないか、と踵を返して大通りを抜けて駅へと向かい、地下鉄に乗り込む。

更新日の確認をして、貯金の確認をして、と描きながら通勤路を歩き、見慣れたアパートの一室へと潜入し、チェストの上の小さな引き出しから封筒を取り出して眺める。
頭の中で再び二人が喜劇を繰り広げる。

《なんだって?一週間も試せるのかい?!冗談は止してくれジョニー・・・・・・》

《なんだよケニー、1週間じゃ足りないのかい?そんな君に朗報だ!なんと!》


思わず首を振り、それは駄目だ、と強く拒んで見るけれど、そこには絶望だけだった。
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