その青に溺れる
故意の出来事


学生の頃、耳にしてた知識は何の役にも立たなかった。
目が覚めたら光が瞬いて、爽やかな顔が見えたり、お洒落な朝食が用意されてるなどと言うことは一昔の漫画くらいで、自分の目の前にあるのは跳ね散らかした髪の毛だけ。

ベッドを抜け出して浴室に向かい、シャワーを浴びる。
今も尚残る身体中に帯びた熱と印された痕。
初めての経験は痛みしか残らなかった。

それは奥底の痛みよりも痛くて、どこかをずっと刺してる棘のように抜けなくて、臓器を掻き回されてるみたいに気持ちが悪くて、どうにもならない。

胸の痞えも取れぬまま浴室から出て着替え、ソファーに座り髪を拭う。
ふと思い付いて携帯を持ち、バスタオルを頭に掛けたまま検索をしていく。
手が勝手に就職サイトを開き、工場の募集記事にエントリーしたあとで住宅サイトを開いて眺めた。

ようやくベッドから彼が抜け出し、欠伸をしながら目の前を通り過ぎていく。
目線を上げた先に上半身裸の姿が見えて思わず視線を戻すと携帯が手から抜け、彼の手の中に納まる。

「仕事辞めたいのか」

携帯を眺めたまま静かに彼は言った。

「……はい」

その答えに間違いはないのに、なぜか鼻の奥が痛くなる。

「まだ1ヶ月経ってないぞ」

そう言いながら携帯を差し出す彼に言葉を返す。

「じゃぁ、1ヶ月経ったら辞めます」
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