消えかけの灯火 ー 5日間の運命 ー




俺は、過去に人を一人殺している。
殺した相手は……実の父だ。

俺の家庭は、正直良い家族とは言えなかった。
父さんは普段は優しくて穏やかなものの、酒を飲めば人が変わり、暴力的な人格へと変貌する。
そんな時に理不尽に手を出されるのは、いつも俺だった。
だけどそれを庇いに来てくれていたのは、母さんだった。
小さかった頃の俺は何も出来ずに、ただ怖くて怯えていた。
父さんから逃げて陰で泣きながら、乱暴に母さんをぶったりする後ろ姿を見ていることしかできなかった。
母さんを助けることなんて、できなかったんだ。
だけど中学に上がって2年生になった頃、俺の心と体はもう成長していた。
父さんが暴力的になった時は、耐えることもできるようになっていた。
もちろん俺の身体には傷が増えていった。
だけどそんなの、母さんに比べれば小さいものだ。
母さんは、ずっとこの痛みに耐えてきたんだから。
母さんはいつものように俺を守ろうと必死で庇おうとしていたけど、俺は母さんの前から離れなかった。
だって俺に出来ることは、これしかないから。
母さんが今まで守ってきてくれたんだ。
でないと俺はきっとボロボロになっていた。
それを阻止してくれていたのは、母さんだ。
俺はもう弱くない。怖くなんかない、怯えもしない。
俺は、何があっても母さんを守らなきゃいけないんだ。
だけど、母さんも巻き添いに合い父さんに突き飛ばされる事もしょっちゅうだった。
俺は怒りで、何度も声を上げた。何度も反抗した。
だけど酒を飲んで人格の変わった父さんには、何も届かなかった。
俺の力では……まだ父さんに勝てるくらい強くはなかった。
殴られて、蹴られて……それの繰り返し。
普段仕事場でも穏やかな父さんは、上司から任せられる無理のある仕事も断ることができないでいたみたいだった。
残業をさせられ、睡眠もあまり取れていなかったらしい。
そのストレスをかき消してくれる物は、父さんにとっては「酒」だった。
そしてそのストレスが姿を見せ、俺たちに降りかかってくる。
もちろんその上司を恨んだ。
うちの家庭を乱しやがって、と。
だけど父さんも父さんだ。
愛している家族なら、こんな風にストレスのはけ口として扱うだろうか。
俺たちはストレス解消の道具じゃないんだ。
我に返ってから気づいて土下座して謝っても、また酒を飲んで同じことの繰り返しだ。

なんで、なんでこうなるんだよ。
もっと他の方法は無いのかよ。
なんで、父さんはいつも……!!

俺の怒りは爆発寸前だった。


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