三日間の幸福
ホテルから出ると、街中がパニックになっていた。
真っ暗な街に響き渡る消防車や救急車の音。
周りの飲食店から流れ出てくるたくさんの人。

ブロック塀や、壁が倒れてるところもある。

非日常的な光景。

やっとスマホの画面を見る。
ママからの電話が4回も来てる。

深呼吸して電話をかける。
と、すぐにママは出た。

「沙和?沙和?地震!大丈夫?」

ママがパニックだ。

「うん、大きかったけど何でもなかった。」
「何してたの?家にいたの?」

何してたの、か。
少し返事に困る。

「ううん、会社の人と飲んでたよ。お店にいた。」

すぐに嘘が出る。

「お店にいたのね。会社の人と一緒だったなら良かった。余震が続くみたいだから・・・」

そういうママの声を遮る。

「そっちは?そっちも揺れたんじゃない?」
「こっちは震度4。少し揺れたけど平気。」
「そっか、良かった。」
「今からどうするの?」

今からどうするの、か。
すっかり歩いて家まで帰るつもりでいた。

「とりあえず家に帰るよ。」
「停電にならなかったの?」
「停電してるけど。」
「避難所に行ったら?」

避難所。
避難所で、知らない人と寝泊まり?
そんなの、嫌に決まってる。

「大げさな・・・」
「避難所に行けば、ちょっとは安心でしょ。」
「安心って。大丈夫だよ。」
「あのね、一番沙和のマンションから近い避難所は、南小学校の体育館。」

ママの背後から声がする。
お客さんの声だ。
金曜日の夜、お店だって忙しいはずなのに。

「南小ね。場所分かんないけど、何かあったら調べて行ってみる。」
「場所分からないって、あんた・・・」
「大丈夫だって。お店忙しいでしょ。」

私はママを落ち着かせて、電話を切った。

真っ暗な街。
歩き彷徨う人々。

さあ、私は一人。
どうしよう。

地下鉄が動いてるわけない。
とりあえず歩いて5キロ離れたマンションまで帰るか。

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