かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
今年いっぱいまでと思っていたけれど、案外引き上げは早かったようだ。パティスリー・ハナザワは現在、新しいパティシエが数人採用されて売り上げ共々滞りなく順調にいっている。それに、恭子さんという店長がいる店なら、またいつ何時困難に見舞われようともきっと乗り越えていける。そう思うと、改めてプロジェクトが成功したのだと実感できた。

「それでだ、婚約中のお前にこんな話をするのは……と思ったんだが」

加賀美さんが人差し指と親指で顎を何度も撫でながら、渋い顔で言葉を濁した。

「年明け早々、お前にまたパリ支店への転勤辞令が出ている。一年間な」

パリに……転勤?

――そっか、花澤が結婚するって言うんじゃ、この件はどうすっかな。

以前、加賀美さんが独り言のように呟いていたあの言葉、この件というのはこのことだったのだ。

「フランス語も堪能だし、以前の職場だから勝手もわかってる。必然的って言っちゃ必然的だけどな。ミッションは業務体制の立て直しらしい、是非お前にって向こうの支店長が泣きついてる」

加賀美さんは頭を掻きながら。うーんと低く唸った。

「けど、新婚早々旦那から引き離すほど俺も鬼じゃない。事情が事情だし、もう一度上に掛け合ってみるか……」

「私でよければ行きます」

「……へ?」
< 181 / 220 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop