騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
二章
 結婚の時期については、グローリア王女が輿入れするまではエルシーも側仕えの侍女の仕事で手一杯なので、それが無事に過ぎてから自分たちの結婚準備に取り掛かることにした。

 早速、次の休暇に合わせて、エルシーはアーネストを連れ、婚約の報告をするために実家へ寄った。
 その喜ばしい知らせに、「娘を末永くよろしくお願いします」と何度も頭を下げ、涙ぐむ母を見て、エルシーの目にも涙が溢れた。

 それからのアーネストの行動は迅速だった。まず自分の屋敷の使用人の中から信頼できる者たちを数人選んでウェントワース侯爵家へ送りこみ、新しく雇った使用人の教育に当たらせた。ところどころ朽ち始めた屋敷の修繕を腕のいい職人に依頼し、王都の名医を母の主治医に任じた。家の中は常に温かく明るく保たれ、さらに毎日の食卓には、豊富な料理が並び、母の顔色もかなり良くなった。もちろん、ルークも家庭教師のもと、日々熱心に勉学に励んでいる。

 喜びに満ちた文面で綴られたルークからの手紙で、実家の近況を知ったエルシーの心に穏やかな風が吹いた。

(頼んだのはルークの後見のことだけだったのに、お母様や屋敷のことも全て、お気遣いいただいて感謝しきれないくらいだわ)

 アーネストにおいては、婚約者の実家がみすぼらしいままでは世間体が悪いと感じた上での行いだったのかもしれないが、エルシーにはその配慮が嬉しかった。

 せっかく縁あって婚約者となったのだから、彼のことをもっと知りたいと思う。その為には、自分も素直に彼と向き合わなくては。そうすれば、この前のようにさらに彼の新しい一面に出会えるかもしれない。

 エルシーの心は数年ぶりに軽やかだった。

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